保育園での実習中に子どもの喧嘩などトラブルが起こった場合、保育士としてどのような行動を取ればよいのか知りたい学生さんもいるかもしれません。喧嘩の状況によって見守るか止めるかも異なり、対処法もさまざまなようです。今回は、喧嘩の例や声かけなどの対処法について、保育士の体験談も交えて紹介します。
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子どもの喧嘩はどんなときに起きる?
保育園でのトラブルとして多い、子ども同士の喧嘩。
保育実習中に喧嘩が発生した場合、一人の保育士としてどう対処すればよいのか戸惑うこともあるかもしれません。
たとえ保育士歴の長い先生でも、時代とともに変わりつつある子どもの姿やトラブルの内容について、その都度対処法を考えていることでしょう。
保育園で起きる喧嘩とは、どういった場面で起こりやすいのでしょうか。
0・1・2歳児クラスで起きやすい喧嘩
0・1・2歳児クラスで喧嘩が起きやすいのは、子どもの言葉がまだ少ないことや順番を守るなどの概念がないことから、 物や遊具の取り合いの場面のようです。
元保育士と、現役保育士の意見をまとめました。
元
保育士
人気のおもちゃを取り合って引っ掻いたり、お気に入りの先生の膝の上にいる友だちを押したりと手が出る喧嘩が多いということを感じていました。
現役
保育士
「〇〇ちゃんは噛みつきがある」といった行動の癖や性格については、クラスの担当保育士全員で共有し、喧嘩が起きたらすぐ引き離すようにするなど対処方法を子どもによって変えています。
0・1・2歳児は自分の気持ちを表現する言葉を知らないこともあり、手が出やすい時期でもあるかもしれません。ケガを伴う可能性のある喧嘩の場合には、特に注意が必要です。
一括りに『1歳児』などと言っても、月齢によって言葉の理解度や行動がまったく違うでしょう。
普段から子ども一人ひとりの性格や癖を把握しておくことが大切ですが、実習中で関係が浅い場合は、クラスの担任保育士さんに、特に気をつけるべき子どもの様子について予め聞いておくとよいかもしれません。
3歳以上のクラスで起きやすい喧嘩
3歳児になると、好きな友だちと一緒に何かをする「連合遊び」へと徐々に移行していくでしょう。決まったルールを守りながら遊べるようにもなるので、「ルールを破った」などのきっかけがあると喧嘩になってしまったり、トラブルへ発展してしまったりすることが多いようです。
遊びのなかで起こる喧嘩について、それぞれこのような意見が挙げられました。
元
保育士
「友だちに貸してほしいと伝えたのにおもちゃを貸してくれない」「仲間に入れてもらえない」といったトラブルがよく起きていました。
現役
保育士
ルールのある遊びを楽しんでいるときに、喧嘩で中断することもしばしばあります。喧嘩を仲裁する場合は、共通したルールを指導できるよう保育士同士で徹底しています。
ルールトラブルは、「〇〇先生はいいって言ったもん!」と、 保育士さんによってルールが変わってしまっていることでさらなるトラブルへと進展する場合もあります。
まずは保育士さんたちが共通したルールを持ち、 指導を統一するようにしましょう。
保育実習において遊びの援助をするときも、共通したルールで指導するということを意識するとよさそうです。事前にルール指導の仕方については、担任保育士さんに聞いておくとよいかもしれませんね。
4歳児や5歳児クラスでは、自分たちで気持ちを伝え合ってトラブルの解決をすることも可能になってくるかもしれません。その場合はすぐに介入せず、見守ることも大切です。
年齢ごとの喧嘩の例を押さえたところで、次に保育士さんが見守るべき喧嘩・止めなくてはならない喧嘩について説明します。
保育士が見守るべき喧嘩
保育士が見守るべき喧嘩とは、どういったものなのでしょうか。
子どもが泣いていない
子どもが泣かずに一生懸命自分の考えを伝えている場合は、多少言葉が詰まっていてもすぐに介入せず見守ることが大切です。子どもの自己表現や問題解決の能力につながる機会かもしれません。
もし途中で泣き始め、話すことが難しくなった場合は保育士さんが介入し、簡単な気持ちの代弁を行うとよいかもしれませんね。
お互いが静かに話し合えている
喧嘩のときに言葉がうまく伝わらずイライラすると、感情的になって声を荒げたり涙を浮かべたりすることがあります。するとさらにパニックになってしまい、自分で相手に気持ちを伝えることは難しくなります。
そこで、 一つの指標となるのが子どもの声量や口調です。
お互いに怒っていながらも、 言葉のキャッチボールが出来ているうちは問題ないでしょう。
子どもだけで話し合えている場合はそっと近くで見守り、エスカレートしそうならすぐに介入できるようにして、 子ども同士の話し合いの時間を大切にするとよいかもしれません。
保育士が止めなくてはならない喧嘩
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次に、保育士さんが止めなくてはならない喧嘩について紹介します。
ケガの可能性がある
喧嘩によってお互いが興奮し、噛みつきや引っ掻き、取っ組み合いが発生するなどケガの可能性があるときは、すぐに制止して引き離しましょう。
手が届かない位置に子どもを移動させ、気持ちを落ち着かせてから話し合いを進めることが大切です。
暴言が出たとき
言葉で相手を傷つける場合も仲裁が必要です。
言葉で傷つけられたことは、たとえ子どでも大人と同じで辛い思いをしてしまいます。
暴言が飛び出してしまったときには、それがなぜいけないのか、言葉によって相手を傷つけてしまうことなどもしっかり子どもたちに伝えたうえで仲裁しましょう。
複数人対一人で対立しているとき
複数人から一人が責められているような状況の喧嘩もすぐに介入して止めるようにしましょう。
大人も何人かに囲まれれば精神的にプレッシャーをかけられてしまいますよね。
この場合、一人の子の味方をしたくなるかもしれませんが、何人であってもまずは全員から話を聞くことが解決への第一歩です。
この他にも、子どもから助けを求められたときには声かけや仲裁の援助をするようにしましょう。
子どもの年齢や月齢によっても見守るべきか、すぐ止めるべきかは異なります。子どもたちの状況を見て判断することが大切です。
子どもの喧嘩が始まったときの対処法
ここでは、子どもの喧嘩が始まったときの具体的な対処法について、流れに沿って説明します。
保育士の体験談も交えているので、保育実習を控えている学生さんなどは参考にしてみてくださいね。
安全を確保する
喧嘩が始まった場合、まずは以下のことに気をつけましょう。
- ケガの有無を確認する
- 周囲の状況を把握する
- お互いがどんな状態か、どんな精神状態かを把握する
もしもケガをしている子がいる場合は、すぐに他の保育士さんに助けを求め、その対応をお願いします。自分は喧嘩を起こしている子どもたちにつき、周囲の安全を確保しましょう。
元保育士や現役保育士が意識していたことについて次のような意見が聞かれました。
元
保育士
まずは子どもたちと周囲の状況を確認し、介入するか見守るか判断していました。
現役
保育士
乳児クラスでの喧嘩の場合は、手が出ていない段階でもすぐに介入するようにしています。
介入するのは感情的になったり、声を荒げそうな雰囲気になったりしてからでよいかもしれません。しかし乳児クラスの子どもは咄嗟に手が出る場合もあるので、早めの介入が必要でしょう。
実習中に喧嘩が起きたとき、子どもにケガがある場合は、すぐに担任保育士さんに報告し、処置をしてもらいます。
担任保育士さんから保護者の方へ、ケガの謝罪をしなければならない場合もあるので、自分が把握している経緯をくわしく伝えてくださいね。
子どもの話を平等に聞く
介入する場合は、まず何があったのか、両者が満足のいくまですべて話を聞くことが大切です。
元保育士と現役保育士それぞれの意見をまとめました。
元
保育士
一人ひとり別個に話を聞き、子どもを追い詰めるように責めたり問いただしたりしないようにしていました。
現役
保育士
複数対一人であっても、自分の判断でどちらが悪いなど決めつけないように気をつけて、必ず全員から話を聞くようにしています。
泣いているから、可哀想だからと「自分基準」での弱い方ばかりの味方をするのではなく、必ず全員から平等に話を聞くようにすることが大切です。
納得のいかないまま無理に仲直りしても本当の解決になりません。子どもが心のモヤモヤを全て出せるよう、優しい態度で話を聞けるとよいですね。
子どもに共感し、状況を整理する
子どもは共感してもらえると安心感が生まれ、情緒が安定するといわれています。
双方の子どもに共感することで、喧嘩の状況を冷静に見ることができ、相手の気持ちの理解につながるでしょう。
子ども同士の物の取り合いの場面についての、以下のような意見が聞かれました。
元
保育士
取った子と取られた子、両方の気持ちに共感して、どうして喧嘩になったか簡単に整理して伝えていました。
現役
保育士
子どもに共感したうえで、どうすればよかったか、相手がどのような気持ちだったかも尋ねて考えるように促しています。
子どもは状況や感情をうまく説明できないことも多いでしょう。保育士さんが決めつけたりせずに、子どもの気持ちに寄り添って推測し、状況を整理することが大切です。
相手の気持ちも考える機会を設けることで、思いやりの心を育てることもできるかもしれませんね。
解決策を子どもに聞いてみる
子どもの喧嘩は、保育士の対処方法によっては子どもの成長のチャンスでもあります。
どうすれば解決できるか、子どもたち自身が考えて答えを出すことも大切でしょう。
喧嘩の仲裁について、元保育士と現役保育士の意見をまとめました。
元
保育士
「仲直りするにはどうすればいいと思う?」と解決策を問うようにしました。
現役
保育士
喧嘩によって悲しい気持ちにならないためには、これからどうすればよいかを考えやすいように促しています。
解決策を問うことによって、子どもたちが自分自身で喧嘩になった理由を考え、仲直りをするための方法を模索するようになるでしょう。
喧嘩によって感じた悲しい、辛いという気持ちや「自分も悪かったかもしれない」という反省心は、他人から言われるのではなく、自分で感じることで芽生えます。
保育士が解決策を提示するのではなく、解決策を聞き出すことを意識的に行うことが大切です。
最後は子ども同士が、何がいけなかったのか、これからどうしたいのかを納得して、仲直りができたらベストといえるでしょう。それが、子どもの社会性や人間関係を学ぶチャンスとなるかもしれませんよ。
子ども同士で喧嘩を解決できるように導こう
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今回は、保育園での子どもの喧嘩の例や喧嘩が起きた場合の対処法について紹介しました。
子どもの喧嘩は大人が思う以上に複雑なことも多いでしょう。見守るか止めるかも、実習中の関わりだけでは見極めが難しいかもしれません。
そのようなときは現役保育士さんの対応をよく観察したり、アドバイスをもらったりするのも一つのポイントです。
喧嘩は子どもたちの成長のチャンスと捉え、自分たちで解決できるよう導けるとよいですね。
元保育士イラスト:icon Stocker/shutterstock.com
現役保育士イラスト:Kongpop/shutterstock.com