保育士養成校の中には、模擬保育を教育課程に組み込んでいるところもあるでしょう。模擬保育とは、保育学生さんが保育実習や入職後の実際の現場を想定して、子どもに対する保育の計画や実行、評価を行うことをいいます。今回は、模擬保育の目的や意味、流れ、遊びと製作の指導案例、実践者として大切なことを紹介します。
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模擬保育とは
模擬保育とは、保育士養成課程にある学生や研修中の保育者が、保育の組み立て方や援助法などを体験的に学んだり検討したりするために、実践を模して行う保育を指すといわれています。
模擬保育の目的や意味とはどのようなものなのでしょうか。
目的
模擬保育の目的として、以下のようなことが挙げられます。
- 保育現場に適応できる基礎的な技術を身につけるため
- 授業で身につけた知識やスキルを、子どもたちの前で主体的に実践するため
- 保育者、子ども役、評定者にわかれ、それぞれの視点から保育の仕方などを検討するため
このような目的をもとに、保育士養成校の学生さんが教育課程の一つとして模擬保育を行うようです。
模擬保育とその振り返りの実践を通じて、実践者、子ども役、 観察・評定者の3つの視 点から一つの保育を見つめ、学生さん同士で共に学びあうことが大切な目的といえるでしょう。
意味
模擬保育の意味には、保育学生さんが保育の実践者となり、計画・実行・反省をすることで自分が主体となって保育をすることの難しさや楽しさを体感できることにあるでしょう。
保育実践のあとに自己評価や周りの人から客観的な評価を受けることで、自分の行う保育が適切か判断できるかもしれません。
模擬保育は、保育実習や入職後に実際の保育現場で役立つスキルや経験を得る貴重な機会といえそうですね。
模擬保育の流れ
では、実際に模擬保育はどのような流れで行うのでしょうか。順に例を紹介します。
1.講義
保育士構成校における「保育原理」や「保育内容」の講義などで、子どもの年齢や発達状況を理解します。
それをもとに、指導案作成の枠組みや留意点も学んだり、模擬保育を行う「実習指導」の前には必要な資料などを学生さん自身で収集したりすることもあるようです。
2.指導案の作成
実習指導の時間において、「担当するのは〇歳児クラスの〇月頃」という想定をもとに、各自で指導案を作成します。
クラスの中でいくつかのグループにわかれ、各班で一人ひとりが作成した指導案についてディスカッションしたり、実習指導教員が添削したりすることもあるでしょう。
その中の一つをグループ指導案とし、模擬保育の実践前にさらなる検討や役割分担をします。
3.模擬保育の実践
実習指導の時間の中で、部分実習の想定としては5分~20分程、責任実習としては45分程で、以下の役割にわかれて模擬保育を実践するようです。
- 実践者:指導案に基づいた保育を行う
- 子ども役:模擬保育における想定年齢に応じた子ども役を演じる
- 観察・評定者:保育を観察し、評定シートへの記入を行う
このように、それぞれの役割においての視点を持ちながら保育に参加することとなるでしょう。
保育の想定時間が短い場合は、グループ内全員が実践者役を経験できるよう、一人ずつ交代して行うこともあるかもしれません。
4.振り返り
最後に模擬保育に対する振り返りの時間を持ちます。
評定者のコメントやシートを確認したり、他班の記録映像を見て評価したりするなどして、よかった点や改善点などを振り返ることとなるでしょう。
さらにそれぞれの班が振り返りとしてまとめた点を、プレゼンテーションやレポート作成をしてクラス内で共有することもあるかもしれません。
模擬保育の具体的な実践例
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ここでは、実際に模擬保育として行なえる運動遊びと製作の具体的な実践例を紹介します。
バランスリレー
まずは3歳児クラスを対象とした室内運動遊び、「バランスリレー」の実践例です。
新聞紙にボールを載せてバランスを取りながら進むリレー遊びをしてみましょう。
ねらい
- ルールを守りながら楽しくリレーをする
- ボールと新聞紙を操作して進む動きを身につける
- 友だちと協力しながら運動を楽しむ
簡単なルールを守りながら楽しく遊ぶことをねらいとしたリレーです。
友だちと協力してゲームを進めていくことを大切にしましょう。
用意するもの
- 新聞紙
- 三角コーン
- ボール
新聞紙やコーンなどの数は、子どもの人数とチーム数に応じて変動します。
ボールの大きさを変えると難易度も変わるので、違う大きさのボールを用意しておくとよいかもしれません。
遊び方
1.実践者が子ども役の生徒に向けてルールの説明をする。バランスリレーのやり方の手本を見せる
2.子ども役の生徒を7~8人のグループにわける
3.先頭の子どもは新聞紙にボールを載せ、後ろ向きになってスタートラインにスタンバイする
4.実践者の合図でスタートし、一人ずつコーンを回って次の子どもに新聞紙とボールを渡す
5.早く全員がゴールしたグループの勝ち
途中で新聞紙からボールが落ちた場合、その場で載せ直してまた進むようにするとよいでしょう。
実践者の関わり
- 子どもがしっかりとルールを理解できているか確認する
- ルールを守って進められているか見守る
- 子どもがボールを落としたときには「大丈夫だよ」「落ち着いて」など前向きな言葉をかける
- リレー中の子どもを応援するよう、他の子どもたちに促す
実践者はこのようなことに気をつけながら援助するとよいかもしれません。
最後には、子どもたちが楽しくできたかやケガがないかなどを確認してから模擬保育を終えるとよいでしょう。
あじさいのちぎり絵
次に、4歳児クラスを対象とした製作、「あじさいのちぎり絵」の実践例を紹介します。
6月の梅雨の時期などに行う保育実習などでも役立つかもしれません。
ねらい
- 紙をちぎる感触を味わう
- ちぎり絵という製作の方法を知る
- 季節の花を製作で表現する楽しさを学ぶ
子どもたちがちぎり絵の楽しさを知ることをねらいとした製作となります。
用意するもの
- 画用紙
- 折り紙
- クレヨン
- のり
- ふきん
折り紙は、あじさいの花を表現できるよう、青や水色、ピンクといった色と、葉っぱを表現するための緑や黄緑色を用意しておくとよいでしょう。
ふきんは子どもの手やテーブルにのりがついたときに拭き取るために使うので、あらかじめ濡らしておくとよさそうです。
遊び方
1.子ども役の生徒に対して、ちぎり絵の説明を行う。このとき、実践者があらかじめ作っておいた一つの完成品を見せるのもよい
2.子どもは4人~6人ごとテーブルにわかれて座り、実践者は各テーブルに必要数の画用紙と折り紙、のり、ふきんを配る
3.子どもは好きな色の折り紙をちぎって、画用紙に花の形になるように貼る
4.折り紙を葉っぱの形にちぎってからクレヨンで葉脈を描いて、貼りつけたらできあがり
子どもが好きな色の折り紙を選んで貼れるよう、十分な数と量が行き渡っているか確認するようにしましょう。
実践者の関わり
- 子どものイメージを妨げないよう、できるだけ自由に表現できるよう援助する
- 「きれいだね」など、肯定的な言葉かけを意識する
- うまくちぎれなかったり、のりが上手に扱えなかったりする子どもには、必要に応じて実践者が手伝う
最後には、「みんなで作ったあじさいを見せあおう」と声をかけ、子どもが掲げて見せあう時間を作って、達成感を味わえるようにしてもよいかもしれません。
模擬保育実践者として大切なこと
最後に、模擬保育を行ううえで、実践者として大切なことを紹介します。
子どもの年齢にあった遊びを選ぶ
指導案作成時は、想定する子どもの年齢にあった遊びを選ぶことがポイントとなります。
模擬保育においての子ども役である学生さんには簡単にできても、実際の子どもたちには難しいこともあるかもしれません。
保育を行うのは小さな子どもだということを忘れずに、想定年齢や様子にあった遊びを選んで、教員や他の生徒と確認しながら指導案を作るようにしましょう。
役になりきる
模擬保育では、以下のようなことを意識して、それぞれの役割になりきることも大切です。
- 保育士役:想定年齢の子どもにあった言葉を選びながらやり方などを説明する
- 子ども役:もし自分が3歳児などの子どもだったら、先生の言葉や説明は理解できるか、実践したときに難しく感じないか確認する
このように、それぞれの役になりきることでより実際のイメージに近づき、有意義な模擬保育となるでしょう。
模擬保育での経験を現場で活かす
実践者は模擬保育で作成した指導案や評価シートは大切に保管し、保育実習や入職後に活かすことも大切なことの一つといえます。
模擬保育において教員や他の学生さんに指導案や実際の保育を評価してもらった点は、客観的に自分の保育を見つめるための目安になるかもしれません。
保育実習などで保育士さんとして子どもに接する前に、もう一度指導の内容を見つめ直すなど、模擬保育での経験を現場で活かせるとよいですね。
模擬保育を通して、現場で活かせるスキルを身につけよう
今回は、模擬保育の目的や意味、流れ、遊びの指導案例、実践者として大切なことを紹介しました。
模擬保育を通じて、実際の保育の難しさや楽しさなど、さまざまな「気づき」を得られるかもしれません。
その気づきが、保育実習や入職後に自分の保育について計画するときや内容を振り返るときの視点として役立つことでしょう。
模擬保育で得た経験をスキルとして身につけて、実際の現場で活躍できるとよいですね。