幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿の一つ「健康な心と体」について知りたい保育学生さんもいるかもしれません。そもそも10の姿は保育所保育指針・幼稚園教育要領の改定により作られた10個の視点のことをいい、2018年4月より施行されたものです。今回は、10の姿の「健康な心と体」について、ねらいや内容、保育士の援助の仕方、具体的な事例を紹介します。
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■目次
10の姿における「健康な心と体」とは
10の姿の一つ「健康な心と体」とは、子どもたちが自分のやりたいことに向かって、心と体を十分に使って取り組んでいくことや、自ら健康的で安全な生活づくりをしていくことを示している視点です。
そもそも、幼児期の終わりに育ってほしい「10の姿」とは、2017年の幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改定に伴いつくられたもので、2018年4月より施行されました。
10の姿は、卒園(=小学校入学時)の時点で育ちつつある子どもの姿を、10個の具体的な視点から捉えて明確化したもので、以下の項目を設定しています。
<10の姿の視点>
①健康な心と体
②自立心
③協同性
④道徳性・規範意識の芽生え
⑤社会生活と関わり
⑥思考力の芽生え
⑦自然との関わり・生命尊重
⑧量・図形、文字等への関心・感覚
⑨言葉による伝え合い
⑩豊かな感性と表現
保育園や幼稚園における生活の中で、子どもの資質や能力を育てる保育を実践し、「10の姿」の視点で振り返ることで、子どもの具体的な姿を小学校へ伝えやすくなったり、今後の学校生活へスムーズに移行したりするとされています。
今回は、10の姿の一つ「健康な心と体」をくわしく解説します。
10の姿「健康な心と体」における視点と具体例
ここでは、文部科学省「幼児教育部会における審議の取りまとめ」を参考に、10の姿「健康な心と体」における視点の意味や具体内容をまとめました。
「健康な心と体」の視点
- 園生活の中で充実感や満足感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組む。
- 見通しを持って自ら健康で安全な生活を作り出していけるようになる。
つまり、「健康な心と体」の視点には、子どもが自ら健康的な心身や安全な生活づくりをするという目的や意味があるといえるでしょう。
「健康な心と体」の具体例
- 安定感や解放感を持ちつつ、心と体を十分に働かせながら充実感や満足感を持って環境に関わり行動するようになる。
- 全身を使って活動することを繰り返す中で、目標をもって立ち向かったり、自分なりに乗り越えようとしたりして根気強くやり抜き、自ら体を動かすようになる。
- さまざまな機会を通して食べ物への興味や関心を持ち、和やかな雰囲気の中で進んで食べるようになる。
- 遊びや生活を通して安全について学び、危険な場所や遊び方、災害などの緊急時の適切な行動の仕方がわかり、状況に応じて安全な行動がとれるようになる。
- 衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動がわかり、意欲や自信をもって自主的にするようになる。
- 集団での場の使い方など生活の仕方を身につけ、自分たちの生活に必要な行動に見通しを持って自立的に取り組むようになる。
保育士さんは、健康的な生活のために必要なことを子どもたちといっしょに考えてみたり、実際にやってみたりしながら保育を実践し、少しずつ身につけていけるような援助を意識するとよさそうです。
10の姿「健康な心と体」を意識した保育士の援助の仕方
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では、保育士がどのように援助していくことが「健康な心と体」における子どもの姿につながっていくのでしょうか。
基本的な生活習慣を身につけられるように日々援助する
「健康な心と体」の内容にもあるように、身の回りの清潔や健康の習慣は園において日々の積み重ねで学んでいくものとされています。
保育士の援助の具体例として、以下のようなことが挙げられるでしょう。
- 外遊びから帰ったら手洗いうがいをするなど基本的な生活習慣を身につけられるよう0歳児クラスから指導していく。
- 必要に応じてペープサートや手遊び、生活習慣に関わる絵本などを活用しながらやり方を教える。
- 乳児クラスからの着脱や排泄トレーニングを通して、体が清潔になって心地よくなるという体験を繰り返していく。
- 子どもの発達に応じて、保育士が援助するだけでなく自分でもできるよう指導していく。
- 保育士がその都度「気持ちいいね」「きれいになったね」と声かけをする。
こういった援助を0歳児や1歳児の頃からも積み重ねていくことで、子どもたちも「これはいいことなんだ」と覚えられるでしょう。
それにより、基本的な習慣として身につき、大人に指摘されなくても自ら健康的で安全な生活づくりができるようになるかもしれません。
基礎的な体の動かし方や感情を育てていく
「健康な心と体」は、幼児期以降も生活していくうえで基礎となる部分といえるでしょう。
基礎をしっかりと確立させるためにも、保育士さんは以下のような援助をするとよいかもしれません。
- 繰り返し行うことで「楽しい」「嬉しい」といった感情を育て、自分の興味のある遊びを選択していけるようにする。
- 指先や手のひら、腕の使い方や力の調節の仕方を学べるような手遊びや製作遊びを取り入れる。
- 「お腹が減ったら食べる」、「疲れたら休む」といった基礎的なリズムを生活の中で学べるよう促す。
- 目標を達成したときは「すごいね」「できたね」といった肯定的な声かけを意識し、子どもたちが自信や満足感をもって生活や活動ができるようにする。
0歳児クラスからの生活リズムづくりや保育士さんとふれあい、手遊びなども幼児期の健康な体づくりにつながっていくでしょう。
乳幼児期において基礎的な「体を使って遊ぶのは楽しい」「目標を達成すると嬉しい」といった心と体の満足感を得られる保育を繰り返していくことが大切といえそうですね。
10の姿「健康な心と体」につながる具体事例と子どもの姿
次に、振り返りの視点となる「健康な心と体」とつながる遊びの具体事例と子どもの姿を紹介します。
発達に応じて遊び方を変える「ドッジボール」
まずは、発達に応じて遊び方を変えていくドッジボールの具体事例です。
具体事例
ドッジボールでは、発達に応じたルールの中で遊びを楽しみ、徐々にルールを覚えていくようにしていきましょう。
たとえば3歳児クラスでは「保育士がボールを投げて子どもたちがボールに当たらないように逃げる」という簡単なルールを設定します。
ゲームに慣れてきたら、徐々に「2つのチームに分かれる」「ボールが当たったら外野になる」といった複雑なルールも指導していきましょう。
遊びを繰り返しながらドッジボールのルールを覚えていくと、5歳児クラス後半の頃には、保育士が介入しなくても自分たちで遊びを展開できるようになるかもしれません。
「健康な心と体」につながる子どもの姿
- 走り回ったり、体をひねったりしながらボールをよけるなど体の動かし方を学ぶ。
- どのくらいの力で投げれば相手に届くのかや狙いを定めて投げることを知り、力を加減できるようになる。
- 他者にとってどのようなことが危険なのか、また自分の身の守り方を学ぶ。
- 「次は〇〇くんを当てるぞ」といった目標をもって体を動かす。
年齢や発達に応じてルールをアレンジして遊びを発展させていくことで、5歳児後半においての姿を3歳児や4歳児から続く視点で振り返ることもできるかもしれません。
達成感を味わえる工夫をした「縄跳び」
4歳頃になると、縄跳びを保育活動に取り入れる園も増えくるかもしれません。
ここでは、縄跳びの具体事例から「健康な心と体」の視点につながる子どもの姿を紹介します。
具体事例
縄跳びの指導では、子どもたちが達成感を味わえるように、「なわとびカード」を作り、目標を達成するごとにシールを貼れるようにしてみましょう。
「連続で2回跳ぶ」といった簡単な目標から、「10回跳ぶ」ことを目標にするなど、徐々にステップアップしていきます。
5歳児クラスでは、基本的な縄跳びの仕方を習得したうえで「長持ち比べ」といったゲーム性のある遊びに発展させてもよいでしょう。
「健康な心と体」につながる子どもの姿
- お手本となる縄跳びの仕方を見て学び、自分も実践してみようとする。
- 次の目標に向けて、自分なりに努力して練習を繰り返す。
- どのように体を動かせば多く跳べるかなど、体の動かし方を工夫するようになる。
- 目標を達成できることの喜びを知り、満足感を得る。
少しずつ目標設定を高くしていくことで、一つひとつ達成していく喜びや次の目標に向けて工夫する姿が見られるでしょう。
上手くいかないことに悩む子どもがいる場合は、自信をなくさないよう保育士さんが個別にフォローするとよいかもしれませんね。
10の姿「健康な心と体」は生きる力の基礎に関わる視点
今回は、10の姿「健康な心と体」の視点と具体内容、その視点につながる保育士の援助、遊びの具体事例と子どもの姿を紹介しました。
「健康な心と体」の視点は、子どもが遊びや生活を楽しむ中で、体を動かす気持ちよさを感じたり、生活に必要な習慣や態度を身につけて自ら健康的な生活づくりをしたりすることとされています。
一人ひとりの個性や発達の違いを考慮したうえで、「健康な心と体」につながる保育を0歳児クラスから少しずつ積み重ねていくことが大切といえるでしょう。