実習日誌でエピソード記録を提出する保育学生もいるのではないでしょうか。保育の振り返りや共有に役立つとして注目されていますが、考察の書き方や保育日誌との違いがわかりにくく感じるかもしれません。今回は、保育のエピソード記録とは何か、書き方のポイントを紹介します。また、0歳児から5歳児まで年齢別の例文もまとめました。
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エピソード記録とは?
エピソード記録とは何か、保育日誌との違いやメリットを見ていきましょう。
エピソード記録の概要
エピソード記録とは、印象に残った1つの出来事についての記録です。
子どもの様子や、保育学生さんが感じ取った子どもの気持ち、またその出来事を通して感じた保育学生さんの思いを、くわしく書いていきます。
子どもの行動や保育士さんの援助など客観的な事実をもとに書く保育日誌とは違い、エピソード記録は子どもや保育学生さんの心情に焦点を当てて掘り下げていく、新しいタイプの記述方式と言えるでしょう。
エピソード記録を書くメリット
エピソード記録を書くことには以下のようなメリットがあるようです。
- 子どもをじっくり観察することにつながる
- 子どもの気持ちに寄り添って考えることができる
- 保育中のかかわり方を見直すことができる
- 読んでもらう人にも、場面の様子が伝わりやすくなる
書くことを通して子どもの気持ちを考えることができ、自分の保育を振り返ることにつながるようです。
また、保育学生さんがその場面で考えたことや感じたことを書くため、読み手にも場面の空気感や子どもの気持ち、保育学生さんの意図を感じ取ることができるでしょう。
エピソード記録の書き方
エピソード記録は、背景・エピソード・考察の3つの要素で構成されます。
書き方をくわしく見ていきましょう。
背景
背景では、読み手が場面の様子を理解するために必要な情報を書きます。
遊びの内容、その場にいた子ども、保育学生さんのいた場所などの情報が必要となるでしょう。
また、子どもの性格や交友関係、最近の様子などを説明すれば、「○○ちゃんは優しい子どもだからこういう行動に出たんだな」などとエピソードを理解する手助けになりそうです。
先にエピソードを書き、あとから必要な情報を背景に書き足すという方法もよいかもしれません。
エピソード
エピソードには保育学生さんの印象に残った場面を書きましょう。
いつもケンカしている子どもが仲良くしていた、ハッとするようなことを言っていた、保育士さんのかかわり方に感動したなど、最も印象強く感じた場面を抜き出します。
しかし、子どもの細かい言葉まで覚えていなかったり、学校や園の決まりで会話は書けないことになっていたりするかもしれません。
その場合、たとえば「『○○ちゃん、いいなあ』と言っていた」という記述であれば「○○のことをうらやましそうにしていた」などと言い換えることでスムーズに文章にできそうですね。
考察
考察では、エピソードを通して保育学生さんがどう感じたかを書きましょう。
よかった点、反省や改善点、新たな気づきなどを盛り込むとよい記録になりそうです。
また、なぜその場面が印象に残ったかを考えると文章にしやすいかもしれません。
「自分のかかわりがうまくいってうれしかったから」「その子に対する印象が変わったから」など、心に残っている理由があるでしょう。
そうした保育学生さんの思いや発見とともに、今後の目標や子どもに対する願いを考えてみるとよさそうですね。
【年齢別】エピソード記録の例文
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0歳児から5歳児の年齢別に、エピソード記録の例文を紹介します。
ここでは背景・エピソード・考察の3つに分けていますが、学校や園の記録様式に合わせてアレンジしてくださいね。
0歳児~1歳児
以下のエピソードは、1歳児クラスで園庭に戸外活動に出たときのことです。
背景
1歳児クラスのRちゃんは、来月に誕生日を迎えて2歳になります。
普段は保育士の側にいたりおもちゃで一人遊びをしたりすることが多く、発語も控えめです。
エピソード
戸外に出てもRちゃんはみんなが遊んでいるボールの方へは行かず、園庭にある藤棚の方へ歩いていきました。
何もせずに藤棚を見ていたため、私は最初「さっき泣いていたから疲れているのかな」と考えました。
しかしずっと見上げるように見ていたため、もしかしたら花が気になるのかなと思い、Rちゃんを抱き上げたのです。
すると、Rちゃんはうれしそうに目をきらきらさせて、花を指差して「あー!」と喃語でおしゃべりしてくれました。
しばらく「きれいだね」と2人で会話を楽しむと、Rちゃんは満足したのか抱っこから降りて向こうの方へ走っていきました。
考察
普段言葉が少ないRちゃんが、藤の花を見て感動した気持ちを私に伝えてくれたことをうれしく感じました。
Rちゃんの「藤棚の花が気になる」という思いに気づき、近くで見たい気持ちを満たすことができてよかったです。
子どもの気持ちを汲み取るには、一目見たときの姿を見て判断するのではなく、そのあとの様子まで観察してかかわることが大切だと学びました。
0歳児や1歳児では、言葉で伝えることがまだ難しいことが多く、子どもの気持ちを捉えるのが困難かもしれません。そうした保育学生さん自身の悩みを書くのもよいでしょう。
子どもの表情や行動をよく観察しておくと、エピソード記録に役立つかもしれません。
2歳児~3歳児
ここでのエピソードは、自由遊びの時間、SくんとUくんがブロック遊びのコーナーでトラブルになったときのことです。
背景
3歳児クラスのSくんはまだ一人で遊ぶことが多く、自分の好きな遊びがはっきりしている子です。
同じクラスのRくんは友だちと仲良くしたい気持ちはありますが、上手な誘い方がわからず、ふざけたりちょっかいを出したりしてしまいがちな子です。
エピソード
SくんとUくんは同じ種類のブロックを使っていたものの、それぞれに好きなものを作っていました。
Sくんはブロックでバスを、Uくんは恐竜を作っているようでした。
私は普段大人しいSくんが「こっちがバス停だよ」「ここは坂道」と教えてくれることがうれしく、お客さん役をしたり道路をつけ足したりしながら遊びに参加していました。
しばらくするとUくんが「先生これ見て」「先生、これブラキオサウルス」などと言って私に見せてくるようになりました。
Uくんも仲間に入りたいのかなと思いましたが、バスごっこに集中しているSくんの遊びの世界が壊れてしまうことを懸念して、相槌を打つことしかできませんでした。
するとUくんがしびれを切らしたのか、「恐竜だぞ」とSくんが遊んでいるバス停を倒してしまったのです。
倒すことが楽しくなってしまったUくんは制止が効かず、そのままケンカになってしまいました。
考察
側で遊びに参加していたのにケンカを止められなかったことが悔しく、エピソードに残しました。
Uくんの「いっしょに遊びたい」という思いをしっかり受け止めればよかったと反省しています。
今後少しずつ友だちといっしょに遊ぶことや遊びの誘い方を知っていけるよう、仲立ちをしていきたいです。
しかし、まだ友だちと遊びのイメージを共有することは難しい部分もあり、遊びが続かないことが予想されます。保育士として遊びを先導するなかで、イメージを共有する活動を取り入れていけたらと考えています。
2歳児や3歳児では、自我の強まりとともに自己主張が激しくなる頃のようです。
そのような姿にスポットを当てると、よいエピソードが見つかるかもしれません。
4歳児~5歳児
ここでは、給食にほうれん草と豚肉が出た日の出来事を記録してみました。
背景
4歳児クラスのMちゃんは食が細く、給食を食べ終わるのがいつも遅くなってしまいます。
咀嚼する力が弱いのか、噛み切りにくい食材が特に苦手なようです。
エピソード
給食を食べ終えた仲良しの友だちがみんな遊びに行ってしまい、心細さを感じたのかMちゃんはますます食べ進みが遅くなります。
私が「お手伝いしようか」と声をかけても首を振るばかりで、正直どう対応しようか悩みました。
豚肉が噛み切れないのかと思った私は、「お口の中に残っていて飲み込みにくいなら、牛乳を飲んでみたらどうかな。お口の中がすっきりするかもしれないよ」と提案しました。
しかしMちゃんは首を振ります。
そこで私は、Mちゃんが牛乳を全然飲んでいないことに気がつきました。
もしかして牛乳が嫌いなのかな、でも普段牛乳は全部飲むのになぜだろうと思い尋ねてみると、Mちゃんは少し悩んで「口の中で牛乳の味と食べ物の味が混ざるのが嫌い」と答えてくれました。
牛乳ではなく汁物と交互に食べることを伝えると、次の日には苦手なお肉に自ら挑戦しているMちゃんの姿が見られ、少しほっとしました。
考察
苦手なものにもその子なりの理由があるのだと気がついたエピソードです。
このことから、子どもの食べ進みについて自分なりに調べ、三角食べや咀嚼の大切さを再認識することにもつながりました。
Mちゃんはすぐに食べ進みが改善したわけではありませんが、少しずつ苦手意識をなくしていけるように見守っていきたいと思います。
4歳児や5歳児では、言葉のやり取りで気持ちを伝えられるようになる一方、子どもの中で複雑な感情を抱いているかもしれません。
また、遊びだけでなく生活の一場面にも目を向けると新しい発見がありそうですね。
エピソード記録を書くときのポイント
エピソード記録を書くときのポイントを紹介します。
5W1Hを意識する
5W1Hとは、情報を的確に伝えるためのポイントをまとめたもので、以下の6つの単語の頭文字を取ったものです。
- When (いつ)
- Where (どこで)
- Who (だれが)
- What (何を)
- Why (なぜ)
- How (どのように)
この5W1Hを満たした文章を心がければ、第三者が読んでも状況がわかりやすいエピソード記録を書くことができそうです。
その場にいなかった人にも状況が伝わるように活用してみましょう。
自分が印象に残った場面を書く
子どもの姿や自分の気持ちを豊かに表現するには、強く印象に残った場面をエピソードとして抜き出すことが大切となるでしょう。
また、そうしたエピソードは、自分が感じたことや子どもの様子などを振り返りやすくなるため、内容や考察もスムーズに書き進められそうです。
子どもの表情や行動を意識して観察しておくことで、印象にも残りやすいかもしれません。
メモを取っておく
いざ記録を書こうとしても、エピソードの細かい部分までは覚えていないこともあるでしょう。
そのため印象に残った子どもの言葉や行動などは、こまめにメモをとっておくとよいですね。
メモを禁止されている園では、休憩に入ったタイミングに書き留めておく、午睡の時間やおやつ後など保育の合間に出来事を整理するなど工夫するとよさそうです。
また子どもの姿だけでなく、自分のかかわりについても書いておくことで、あとから振り返ったときにわかりやすくなるかもしれません。
失敗や悩みなども書いておく
エピソード記録にはよかったことだけでなく、失敗や悩みについて書くのもよさそうです。
書いているうちに考えが整理されて、「明日はこうしてみたらよさそう」「このとき子どもはこういう気持ちだったのかな」と気がつくかもしれません。
また、先輩保育士さんにエピソード記録を見てもらえば、保育の指導もお願いしやすいでしょう。エピソードを共有することで、新たな見方や改善点の気づきにつながることもありそうです。
エピソード記録について知り、保育に活かそう
今回は保育に活かせるエピソード記録の書き方や記録の例文を紹介しました。
エピソード記録は普通の保育日誌とは異なり、子どもや保育学生さんの気持ちに焦点を当てた記録様式です。
記録することで、子どもの気持ちに寄り添ったり、自分のかかわりを見直したりすることにもつながるでしょう。
印象に残った出来事のメモを残す、よいことだけでなく失敗や悩みも書くなどのポイントをおさえることで、より保育に活かすことができそうです。
エピソード記録の書き方や年齢別の例文を参考に、実習や入職後に活用してみてくださいね。