保育士養成校において、発達心理学の一つ「ピアジェの発達段階」を学ぶことがあるでしょう。この理論は、子どもの認知発達を年齢ごとの4段階にわかれているのが特徴で、内容を把握することで保育に役立てられるかもしれません。今回は、ピアジェの発達段階の考え方や概要、学習のポイントを紹介します。

MIA Studio/shutterstock.com
■目次
「ピアジェの発達段階」について知ろう!
ピアジェの発達段階は、児童心理学者のジャン・ピアジェ氏によって提唱されたものです。
ジャン・ピアジェ氏は1896年スイスに生まれ、10歳の時に白スズメに関する論文を発表、そしてその論文が博物館の館長の目にとまり、彼のもとで放課後非常勤の助手を勤めることになりました。
19歳でヌーシャテル大学動物学科を卒業し、ローザンヌ大学やチューリッヒ大学、パリ大学などは心理学を学んだ後、いくつかの大学で教鞭をとり、パリ大学では児童心理学講座の教授を務めたそうです。
そして亡くなる1980年まで精力的に研究を続けていたようです。
50冊以上の本と500本以上の論文を発表し、心理学のみならず教育学・哲学・生物学の分野にも影響を与えたといわれています。
ジャン・ピアジェ氏の考え方はフロイトの「リビドー発達段階理論」、エリクソンの「心理社会的発達理論」と並んで3大発達段階説とされています。
ピアジェの発達段階における考え方
では具体的に、ピアジェの発達段階にはどのような考え方があるのでしょうか。
3つの学習段階がある
ピアジェは人が生まれてからいろいろなものを認知し、学んでいく過程を「シェマ」「同化」「調節」の3段階にわけて考えました。
1.たとえば、子どもに5体の犬のフィギュアを見せ、それを「犬」と教えるとします。
するとそれぞれ個体は異なるものの、子どもは「犬」と言われるものの共通点を見つけるでしょう。これが「シェマ」です。
2.その後、大人が猫のフィギュアを見せたときに、子どもは以前の経験からそれを「犬」だと言うとします。このように持っているシェマを他のものに当てはめようとする行為が「同化」です。
3.しかし、子どもは大人から「これは猫よ」と教わります。すると子どもは新しい「猫」というものを認識し、犬のシェマと区別するようになるかもしれません。これが「調節」です。
こうした経験が蓄積されていくと、大きく黒い犬の鼻、猫の小さい鼻とへの字の口、長いヒゲやしっぽなど、意識しなくても犬と猫を見分けるようになります。
このように学習段階があると唱えているのが、ピアジェの発達段階の一つの特徴と言えるでしょう。
暗記ではなく本質的な理解が大切である
ピアジェ氏は本質的な理解をしていない「暗記のみ」の教育に違和感を覚えていたといわれています。
たとえば、「数」の概念を理解するための第一歩として「1から10まで数を数えられる」ことは大切ですが、それだけではなく以下のように「数」の本質的な理解をしなければならないとしています。
- 10という数字は3と7に分けることができる。
- 10から3がなくなると7になる。
- 10は5と5にも分けられるし、2と8にも分けられる。
- 10が10個あると100になる。
- つまり100を10個に分けると10の塊が10個できる。
こういった本質的な理解をすることが重要であるとピアジェは説いています。
理解を進めていくことによって「10はほかにどんな数に分けられるだろう?」「7という数字は何で半分に分けられないのだろう?」といったような疑問に子ども自身が気づくことがあるかもしれません。
そういった「能動的な思考」へつながっていくこともピアジェの考え方の一つです。
ピアジェの唱える4つの発達段階の概要

MIA Studio/shutterstock.com
ピアジェは、認知発達段階を以下の表のように、年齢ごと4段階にわけられると考えました。

このように、個人差はあるものの、成長順序は普遍的であると唱えています。
上記の表をもとに、それぞれの発達段階についての概要をくわしく紹介します。
0~2歳:感覚運動期
0歳~2歳の乳幼児期を、ピアジェは「感覚運動期」としました。
生後1カ月くらいまでは反射的な行動(モロー反射や吸てつ反応など)を使って外界と接触することで、シェマの土台をもち始めるとしています。このとき、自分と他者の区別はありません。
成長とともに自らの体を動かし、五感の刺激を求めて先述した「シェマ・同化・調節」を繰り返していくようです。
周囲の人の声かけや世話、スキンシップなどで「他者と自分を区別すること」や「ものの形と役割を知ること」、「物事を予測すること」を覚えていくとしています。
この時期には、以下の3つの認知機能が発達するようです。
1.循環反応
循環反応は、「足や指をしゃぶる」「気になるおもちゃを何度も触る」など、同じことを繰り返し行うことで自分の身体やものの存在を確かめる反応のことです。
2.対象物の永続性
たとえば、生まれてまもない子どもの目の前におもちゃがあったとして、大人がそれに布をかぶせて見えなくしてしまうと、子どもはおもちゃがなくなったと思います。
しかし、感覚運動期の後半には、布をかぶせられて視界から消えても、子どもはおもちゃがまだそこにあると認識できるようになります。
このように、人やものが目の前から見えなくなっても、状況に応じて「存在を予測」できるようになるのが対象物の永続性を理解しているということになるでしょう。
3.シンボル機能
シンボル機能は、物事を象徴的に捉え、認識できる機能です。
たとえば、犬のぬいぐるみと写真の犬を見て「どちらも犬だ」と理解していることを言います。
2歳~7歳:前操作期
言語機能・運動機能ともに発達が著しい2歳~7歳頃を「前操作期」としています。物事を自分のイメージを使って区別して認識できるようになるのが特徴です。
この時期には、創造力や想像力を働かせた「見立て遊び」や「ごっこ遊び」を盛んに行うでしょう。
そして、以下の3つの特徴が見られる傾向にあるようです。
1.自己中心性(中心化)
「私の考えは絶対」という自己中心性の考え方は幼児や児童に多いかもしれません。
自分から見た視点でしか物事を考えられず、他者の気持ちを思いやることが難しいのが特徴といえるでしょう。
2.保存性の未発達
論理的思考が未発達のため「ものの形状が変化しても、量や性質は変わらない」ということの理解も難しいかもしれません。
たとえば、例えば大きなケーキをたくさん切り分けると、切り分けた方が多くなったと錯覚することなどが挙げられます。
そういった思考のことを保存性の未発達と言います。
3.アミニズム的嗜好
アニミズム的嗜好とは、物事に命や意思があるように、擬人化する傾向のことです。
たとえば、ぬいぐるみや食器、食べ物などに話しかけたり、それを使って一人芝居をしたりする様子が見られることを指します。
7~11歳:具体的操作期
論理的思考力が発達し、相手の気持ちを考えて発言・行動できるようになる7歳~11歳頃を「具体的操作期」としています。
数的概念が理解できるようになり、重さ・長さ・距離など比較も可能になるかもしれません。それにより、前操作期にあった物事の擬人化は徐々に減っていくでしょう。
この時期に見られる特徴は以下の2つとされています。
1.保存性の習得
具体的操作期になると、見た目に惑わされることはなくなります。
たとえば「大きなケーキを切り分けても、量は変わらない」「1リットルの水はどんな形や数の容器に入れても1リットルのまま」などと認識できるようになるのが保存性の習得です。
2.脱自己中心性
脱自己中心性は、自己中心的な考え方から脱却し始めることを言います。
コミュニケーション能力が発達し、共感力が育つことで他人の立場に立ったものの考え方ができるようになるかもしれません。
11歳~:形式的操作期
11歳以降には、物事に筋道を立て、予測しながら考える論理的思考のほかに、抽象的思考ができるようになるかもしれません。この時期を形式的操作期と言います。
抽象的思考とは、具体的な事象や時間の流れに捉われずに「物事を広い視点で考える」ことです。自分で実際に体験したものではなくても、説明・映像などから具体的なイメージをえがくことができるでしょう。
これまでの知識や経験を応用して仮説を立て、結果を予測して行動・発言することも増えるのが特徴と言えます。
「ピアジェの発達段階」についての学習を保育に活かすポイント

polkadot_photo/shutterstock.com
ピアジェの発達段階については、保育士試験や養成校のレポートなどのテーマなどで扱われることがあるようです。
ここでは、学習するときのポイントを紹介します。
認知発達段階全体を網羅する
保育士試験で出される問題は、ピアジェの唱える認知発達段階を理解しているか問われる傾向にあるようです。
全てを丸暗記するより、どの年齢でどのような認知発達の特徴が見られるのか、ニュアンスで覚えるほうが効果的かもしれません。自分の知っている子どもに当てはめてイメージしながら、理解を深めていくとよさそうです。
それぞれの段階の特徴を覚える
先述した4段階の特徴と詳細は、簡単に説明できるくらいまで覚えることがポイントになります。
実際の保育士試験では、「前操作期に起こる自己中心性とは何か」や、「具体的操作期に起こる保存性の習得とはどういったことか」といった問題が出題されることもあるようです。
それぞれの年代の子どもの、認知発達段階の特徴はどういったものかを中心に覚えておくと、試験で出されたときはもちろんレポートなどのテーマで用いるときもスムーズかもしれません。
ピアジェの発達段階を把握して、保育士試験や入職後に活かそう
今回は、ピアジェの発達段階について、4段階にわけたくわしい概要や保育士試験に向けた学習ポイントなどを紹介しました。
ピアジェの唱えた理論を把握することで、試験問題の対策ができるだけでなく、「この年代の子どもにはこういった発達段階の特徴があるから、関わり方を工夫しよう」など保育でも知識を活かすことができるかもしれません。
今回した表や発達段階の特徴などを参考に理解を深めて、入職後などに活かせるとよいですね。