近年、保育士の人材不足による待機児童問題などが深刻化しているといわれています。なぜそのような問題が発生しているのか、現状や課題などが気になる学生さんもいるかもしれません。今回は、保育士の人材不足が起きる原因や、国が行っている対策について説明します。また、園独自の具体的な解決策についてもまとめました。
metamorworks/shutterstock.com
■目次
保育士の人材不足の現状や課題
現在、保育士の人材不足が待機児童問題の原因の一つになっているといわれており、大きな社会問題となっているようです。
そもそもなぜ保育士が足りていないのでしょうか。
原因について解説する前に、まずは保育士の人材不足の現状と課題について、厚生労働省の資料をもとに見ていきましょう。
現状
現在、待機児童の増加に伴って保育の需要は増え続けているといわれています。
厚生労働省の調査によると、政策通りに保育の受け皿を拡大した場合に必要とされる保育士の数は、2017年度で約46万人です。
しかし、保育士の離職率を考慮して推計した現在就業中の保育士の数は、約38万6000人ほどであり、現状では年間7万4000人ほどの保育士が不足していることになります。
これは、保育士養成施設で保育士資格を取得した人の半数が、保育園に就職していないという現状があるためのようです。また、保育士資格を持っていて保育園への就職を希望しない求職者のうち、半数以上が保育士としての勤務年数が5年未満というデータもあります。
つまり、保育園への就職を希望する新卒者が少なく、就職したとしても5年以内に離職する人が多いというのが現状と考えられるでしょう。
課題
現状に対する課題として、以下のことが挙げられそうです。
- 保育士が長期間定着しない
- 「潜在保育士」が多い
労働条件や環境面で改善の兆しが見えにくいことなどが、保育士としての就業継続を思いとどまらせている理由かもしれません。先ほど説明したように保育士は早期に離職してしまう人が多いため、定着率を上げるための支援や対策が必要と言えそうです。
また、保育士資格を持ちながら保育園などに就職しなかったり、いったんは保育士として勤めながらも、退職して復帰しなかったりする「潜在保育士」が多いという問題も挙げられるでしょう。
2016年の厚生労働省による調査では、潜在保育士は全国に約76万人いると示されています。しかし、休職中の潜在保育士のなかには、「保育士として就業を希望しない理由」が解消された場合には63.6%の人が就業したいと考える人もいるようです。
以上のことから、保育士の就業率と定着率を上げることや、潜在保育士の再就職支援などが今後向き合うべき課題と言えるでしょう。
保育士の人材不足の具体的な原因
では、どういった要因が解消されれば、保育士の就業率が上がるのでしょうか。人材不足につながっているとされる原因の例を紹介します。
給料が低い
保育士は他職種と比べて給料が低いという点から、就業を希望しないという方も多いようです。
厚生労働省の資料のなかで、2019年の全職種と保育士の平均賃金を比較した表が、以下のように示されていました。
全職種の平均年収が500万7000円であるのに対し、保育士の平均年収は363万5000円となっています。
保育士さんが給料に対して不満を感じる要因として、子どもの命を預かる責任の重い仕事に対して、金額が「見合わない」と感じることなどが挙げられるかもしれません。ほかにも、保護者対応や事務作業などの負担が大きいため、仕事量に合った給料をもらえていないという不満を抱きやすいことも考えられそうです。
業務量が多い
一般的に、保育士は子どもの保育をすることが主な業務だと思われていることが多いかもしれません。しかし、実際はそれ以外に、保育計画の作成や連絡帳の記入、保護者へのおたよりの作成などの事務作業も行います。
現在も保育の現場は手書きが主流であり、書類の記入や報告業務のICT化の進みが遅いため、作業の負担を感じやすくなっているのかもしれません。また、園によっては運動会や生活発表会などイベント前の準備が忙しく、時期によってさらに業務がかさむケースもありそうです。
休暇が希望とあわない
シフト制で週休2日としている園が多いようですが、土曜日と日曜日に保育を行なっていることもあるため、1週間のなかでいつ休めるのかは園により異なるでしょう。
また、配置基準ギリギリの人数で運営している園もあるため、周りの職員への負担を考慮するとまとまった休暇を取りにくいという実態があるようです。本来取れるはずの休暇がなかなか取れない、希望する日に休めないといったことが、モチベーションの低下につながるのかもしれません。
保育士の仕事に見合う賃金が確保され、業務量や休みに関する環境が整えば、保育士を希望する人は増えていくかもしれません。
では、実際に保育士の人材不足解消に向けて国や園が行っている対策について見ていきましょう。
保育士の人材不足に対して国や自治体が行う解決策
metamorworks/shutterstock.com
まずは、国や自治体が行なっている解決策について紹介します。
国が行なっている対策
保育士確保プラン
2015年に発表された「保育士確保プラン」では、必要な保育士数確保のため以下のことを強化すると説明されています。
①人材育成
②就業継続支援
③再就職支援
④働く職場の環境改善
「4本の柱」を基本としたさまざまな取り組みのなかで、保育士試験の年2回実施や処遇改善などが進められています。また、福祉系国家資格(社会福祉士や介護福祉士、精神保健福祉士)をもっている人に対して保育士試験科目等の一部免除したり、離職保育士に対する再就職支援を強化したりする政策も実施されているようです。
このプランは2018年度末の時点で新たに必要となる6万9000人の確保を目標として施行されたものですが、現在も継続して行われています。
自治体が行っている対策
保育士の就職準備金の貸付
保育士養成施設に通うための修学資金の一部貸付を行なっているところもあるようです。また、働きながら養成校で資格取得を目指す方は、授業料の補助が受けられる場合もあります。くわしい要件については、自治体のホームページなどを確認してみてくださいね。
保育士宿舎借り上げ支援事業
事業者が宿舎を借り上げるための費用を、保育士1人当たり月額最大8万2000円補助するという事業です。保育士の労働環境を整えることが目的で、待機児童解消加速化プランに参加している市町村が対象となります。
独自の処遇改善
特に保育士が不足している自治体では、以下のように独自の施策によって保育士の処遇改善に力を入れています。
- 東京都:2017年度より約4万4000円の給与補助の上乗せを目指す(ただし一定の要件を満たす必要があり、園に対して配布される)。区ごとの補助もあり
- 大阪府大阪市:保育士登録後1年以上かつ保育所等を離職後1年以上経過した場合、就職準備金として40万円(上限)を貸与。就職後2年以上継続して保育に従事した場合は、返済免除となる
このほかにも、独自の支援や補助を行なっている自治体があるようです。勤務を希望する場所に応じて、調べてみるとよいかもしれませんね。
保育士のキャリアアップの仕組み改善
2017年、国によって「保育士等キャリアアップ研修」が導入されました。これは保育士のキャリアアップの流れを見通しよくし、役職ごとに指針を定めて研修を実施する制度です。
これまで、保育士の役職はクラス担任などの一般保育士のほか、主任保育士、園長という2つしかないケースが多くありました。しかし、この制度によって新たに「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」という役職が設けられました。
保育士等キャリアアップ研修を受けると、これらの役職に就くチャンスが増え、給与に最大月額4万円上乗せされることもあります。役職が増えたことで、若手や中堅の保育士がキャリアアップしやすくなり、同時にさらなる処遇改善が見込まれるといえるでしょう。
出典:保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について/厚生労働省
保育士の人材不足に対して園が取り組む解決策
最後に、保育士の人材不足に対して保育園が取り組む解決策の例を紹介します。
労働環境の改善を行なっている
残業ゼロや有給休暇の取得率アップを目指す園、ICT化を推進して業務負担の軽減に取り組む園など、労働環境の改善に力を入れているところもあるようです。
自身の希望に沿った働き方ができたり、事務作業の負担が少ないことで保育に専念しやすかったりすれば、保育士としてのやりがいを感じやすいかもしれません。
独自の福利厚生を取り入れている
園独自に、国内・海外への研修制度やレジャー施設の利用優待などの福利厚生を取り入れている園もあるようです。仕事面だけでなく生活面も充実できる福利厚生があることで、ワークライフバランスを実現しやすくなるでしょう。
福利厚生を有効的に活用してリフレッシュできれば、結果的に保育士の定着率アップにもつながるかもしれませんね。
保育士の人材不足の原因を把握したうえで就活を進めよう
今回は、保育士の人材不足の具体的な原因や、それに対して国が行っている解決策などを紹介しました。
保育士は年間7万人以上不足しているといわれており、深刻な人材不足となっているようです。現状や課題については、就職面接において時事問題でとして意見を問われることもあるため、学生さん自身のなかで内容をしっかりと把握しておくことが大切です。
待機児童問題解消のために、今後も保育士の需要は高まっていくと考えられます。国による解決策として処遇改善なども実施されているため、自身の将来性についても考えながら就活を進められるとよいですね。