「母子寮」から何が変わった?「母子生活支援施設」の変化

戦後の児童福祉法制定後から母子を保護してきた「母子寮」。
現在では時代にそってその役割も変化し、「母子生活支援施設」へ名称変更をとげています。
保育士として、母子生活支援施設で働きたいという希望がある人もいるのではないでしょうか?

「母子寮」から何が変わった?「母子生活支援施設」の変化

今回は、母子寮から変化した母子生活支援施設について、時代の変化に合わせた役割などを法律などもまじえながら見直していきましょう。

母子寮から母子生活支援施設へ変化した背景

前述した通り、母子生活支援施設はかつて「母子寮」という名称でした。
母子寮の主な役割・機能は生活に困窮する母子家庭に住む場所と提供し、母子を保護することにありました。
平成9年の児童福祉法改正によって、母子寮は母子生活支援施設へと名称を変えるとともに、「自立促進のため生活を支援する」という目的が新たに与えられています。

○時代にあった役割が必要
時代の変化に伴い、母子生活支援施設に助けを求める母子にも変化が生じています。
近年、顕著に増えているのが、DVや虐待、障害や病気、さらに異文化での生活に苦しむ外国籍の母親とその子どもたちの入所が増えているのです。
ニーズは複雑かつ多様化の一途を辿っていることは、母子生活支援施設にとって、個別対応の必要性が高まっていることを意味しています。
これら複雑化するニーズに対処し、母子の自立実現に向けて支援を行うために、母子生活支援施設には益々の専門性の高度化が求められていると言え、母子生活支援施設に求められる役割もまた変化しています。
特に近年「支援付き自立」の必要性が高まっています。
全くの支援をしなくても、自立できる状態を昔は目指していたのですが、最近では最初から完全な自立を目指すのではなく、当初は支援を受けながら「自立した生活」をすることを目指すことが主流になりつつあります。
自立した生活とは、安全な環境の中で、安心して、孤立せず、自己肯定感を持って、自分の人生を歩むことを指します。
母子生活支援施設はその持てる機能をフルに発揮し、そのような母親と子どもの自立生活の実現を支援していく役割を担っています。

○今後より平等な支援を
かつて母子生活支援施設は、施設によって取り組みの差が大きいと言われてきました。
もちろん、支援の担い手がある以上、また支援が母親・子どもの個別の事情に寄り添って展開される、オーダーメイドの支援である以上、差が生じるのは止むを得ない側面もあります。
しかし、最終的な目標である「自立した生活」を実現するという観点から見て、支援に差が生じないように、各母子生活支援施設はその支援のあり方を高度化し、向上させていくことが求められています。

法的根拠から見る、具体的な母子生活支援施設の役割

ここでは児童福祉法などの法律から、母子生活支援施設の役割とは何かを紹介します。

○母子生活支援施設の役割(1)児童福祉法第38条
第二次世界大戦後、戦争孤児が街にあふれる中、1947年(昭和22年)に児童を保護するための法律「児童福祉法」が制定されました。
その後、1998年(平成10年)にはその内容が一部改正され、第38条では前述の通り、「母子寮」という名称を「母子生活支援施設」に改め、目的も追加されています。

※以下引用
<児童福祉法第38条>
母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。

この時の法改正のポイントは、その目的の変化です。
従来の項目に加え、「入所者の自立の促進のためにその生活を支援すること」という文言が追記されました。
母子生活支援施設の役割とは、住居の提供にとどまらず、入所者がその後自立した生活を歩んでいけるよう、支援計画を策定することだと述べているのです。

○母子生活支援施設の役割(2)児童福祉法改正=2004年(平成16年)
2004年(平成16年)に改正された児童福祉法では、母子生活支援施設を退所した後の母子へのアフターケアの重要性が説かれています。
施設を退所後、再び困窮した生活に陥ってしまう事例を防ぐため、明記されたものです。
これにより、入所中の支援だけでなく、退所後の支援も母子生活支援施設の役割の一つとなりました。

○母子生活支援施設の役割(3)児童福祉法第48条2項
児童福祉法第48条2項により、母子生活支援施設の役割としては、より社会的な福祉という観点から、地域の母子に対するものも挙げられています。
母子生活支援施設は、地域の母子に対し、子育て相談や子育て支援を行うようにしなければならないことが明記されているのです。

※以下引用
<児童福祉法第48条2項>
乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立
支援施設の長は、当該施設の所在する地域の住民に対して、その行う児童の保護に支
障がない限りにおいて、児童の養育に関する相談に応じ、及び助言を行うよう努めな
ければならない。
母子生活支援施設が、地域の母子に対してひらかれた施設であらねばならない旨は、2002年(平成14年)に制定された「母子家庭等自立支援対策大綱」で、新たな機能の創設という、より具体的な内容に踏み込んで述べられています。

○母子生活支援施設の役割(4)DV防止法第3条4項
2001年(平成13年)に制定された「DV防止法」では、第3条4項にてDV被害を受けている女性の一時保護先として、母子生活支援施設を位置づけています。

○母子が将来にわたって、笑顔で暮らせるための法律改正
ご紹介した通り、母子生活支援施設は戦後の児童福祉法制定以来、約70年間、生活に困窮する母子が安心して暮らせる保護施設として機能し、さらには母子が自立した生活を送れるように支援することを目的として存在してきました。
戦後70年の間には、母子を取り囲む社会情勢も様々に変化し、その都度、状況に合わせて法律も作り替えられ、現在に至ります。
母子生活支援施設は、DV被害者のための一時保護施設としての機能を持ったり、地域の母子の相談の場としての機能を果たしたりもします。
そして、最も大切な役割としては、母親への子育て支援と母子の生活の自立のための支援です。
母子が将来にわたって笑顔で暮らせるよう、支援を行うのが母子生活支援施設の役割なのです。

母子生活支援施設における、課題に対する専門的支援

母子生活支援施設のそもそもの役割は、母子生活支援施設を利用する母子の人格や権利を保障し、利用者が安心して日々の生活を送れるようにサポートし、将来の安定的な生活のための地盤づくりや子どもが健康的に育っていけるような環境づくりにあります。
それらを実現するためには、母子生活支援施設で働く職員が専門的知識を持って支援していくことが必要になってきます。
そこでここでは、母子生活支援施設を利用する母子の課題に対する支援のプロセスについてまとめます。

○ニーズを把握し課題を確定する
まずは、母子生活支援施設を利用する母子が、どんな背景を持ち、どんな理由で母子生活支援施設を利用するようになったのかを知ることから始まります。
そこには利用者によって個々の理由が存在します。
個々の抱えるニーズを的確に把握し、課題を確定します。
この一連の作業のことを、「アセスメント」と呼びます。

○母子の課題解決のためのプランを策定する
アセスメント終了後は、その課題解決に向けて速やかにプランを策定していきます。
課題解決にはどのような手段が適当なのか、課題解決の方向性を見定めていくのです。
また、母親と子どもは別の人格であることも頭に入れておかなければなりません。
母親と子ども、個々のプランを策定することが肝要となります。
プランが練りあがったら、誰がいつまでにどんな内容の課題をどういった手段を用いて解決していくのかが分かる内容になっているか、具体的で実現可能な内容になっているか、必ず内容を確認しましょう。

○支援は柔軟な姿勢で行うこと
課題解決のためのプランの策定では、課題解決までの期間や一つ一つの手順を明確にする必要がありますが、肝心の利用者である母子のその時々の状況を鑑みて、柔軟な対応をすることも必要です。
いつまでに○○をしなければならないと、当初立てたプランに縛られ、母子の気持ちを置いてきぼりにしては、信頼関係は崩れてしまいます。
課題解決のプランに関しては、折々で見直しを図ることが大切です。

○分かりやすく説明するよう配慮すること
課題解決のためにはプランの内容を、母子生活支援施設の母子に理解してもらっているかが最も重要です。
言葉で説明しただけでは理解してもらいにくいと感じた場合、適切な資料や図や写真を用いて説明すると有効です。
母子生活支援施設の職員にとっては簡単と感じる用語でも、素人からすると難しく感じるものがあるということを頭に入れておきましょう。

○専門的支援を行うには
母子生活支援施設を利用する母子の課題に対する専門的支援を行うには、まず利用者母子のニーズを把握し、課題を策定し、課題解決のためのプランを立てることが基本です。
母子生活支援施設の利用者母子にとって有益なプランにするために、利用者母子に内容を理解してもらい、共に解決内容を考えていくという利用者主体の支援プロセスを意識してみましょう。

今後の変化

戦後と現代では母子を取り囲む状況が大きく変化し、母子生活支援施設の役割も大きく変化してきていることをご紹介しましたが、今後も将来にわたってより改善されたり、状況に応じてまた変化が必要となることも考えられます。
母子生活支援施設は様々な過酷な状況を経験してきた母子の人権擁護の最後の砦です。
母子の人権を護るための支援を提供できるように適切に変化していくことこそが、母子生活支援施設に求められるものではないでしょうか。

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