卒業年の保育学生さんは、卒論のテーマ選定に悩む方も多いのではないでしょうか。長い時間をかけて取り組むことなので、なかなか決まらない人もいるかもしれません。今回は、絵本や遊びといった保育学生さんに役立つ卒論テーマの選び方と、情報収集や調査研究を元にした書き方、卒論制作の留意点について紹介します。
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■目次
卒論とレポートの違いとは?
授業などで提出するレポートと卒論には、どのような違いがあるのでしょう。事実や資料を元に、自分の主張を論理的に説明するという意味ではどちらも同じものになります。
異なるのは、レポートは先生からある程度テーマを与えられているのに対し、卒論は自分でテーマを決めなくてはならない点です。
そのため何を書けばよいのか決まらないと困惑する保育学生さんも多いかもしれません。卒論制作をスムーズに進めるために、テーマの選び方は大切ですよね。
卒論を書くときには完成までの道のりを見通し、自分が深く追求できそうなテーマ選びから始めてみましょう。
保育学生に役立つ、卒論テーマの選び方
卒論のテーマは、所属ゼミや教授の指導によって大まかな方向性が決まることが多いようです。
ここでは、保育学生さん向けの卒論テーマの例と決め方のポイントをまとめました。
卒論テーマの例
遊び・保育実践系
- 子どものごっこ遊びがもたらす効果
- 食育を通して育む生きる力
- 保育環境が子どもに与える影響
- 母親(保護者)の心理と子どもの心の動き
- 絵本の魅力に関する研究
保育・教育学系
- 日本の保育制度に関する研究
- 保育史に見る子どもの遊びの変化
- 海外の保育思想と日本の保育に関する考察
- 保育所保育指針の編纂の歴史
児童福祉・障がい児保育系
- 待機児童の現状と社会問題
- 障害児保育の現状と未来
- 子どもの権利の歴史
- 統合保育における子どもの遊び
自分の気になるテーマがあったら、決める前に簡単に調べてみるとよいでしょう。
卒論テーマとして考えられる題目を列挙してみると、自分がより深く追求したい内容がはっきりしてくるかもしれません。
卒論テーマを選ぶときの3つのポイント
それでは、実際に書く卒論テーマはどのように選ぶとよいのでしょうか。選び方のポイントを3つ紹介します。
1.興味のあるものを選ぶ
卒論のテーマの選び方の1つは、保育学生さん自身が興味のあるものを選ぶとよいでしょう。
自分の好きなことや興味のある分野なら、文字数が多く完成までに時間のかかる卒論を、意欲を持って最後まで書ききることができそうです。
保育学生さん自身が、保育について日頃から感じていることや疑問に思うことを改めて見つめ直してみるのもよいかもしれません。
2.書きやすいものを選ぶ
テーマの選び方の2つ目は、保育学生さんにとって書きやすいものを選ぶということです。
例えば「幼児期に〇〇をすると、大人になってこういう結果が出る」など、長期に渡る追跡調査を卒論で書くことは難しいかもしれません。
また、先行研究や参考にできる資料の量も、書きやすさに直結するポイントです。
少な過ぎるとデータを集めるのに時間がかかりますし、多すぎると読み込むのが大変なうえ、研究テーマが被ってしまうことも考えられます。
卒論では、狭く深く掘り下げて書けるように、身近で書きやすそうなテーマにするという選び方がよいでしょう。
3.話題になっている事例から選ぶ
選び方のポイントの3つ目は、子どもを取り巻く環境など、話題になっている事例から選ぶという決め方です。
保育の勉強に取り組んでいる保育学生さんにとって、「待機児童問題」や「子育て環境」など、身近に感じるニュースも多いのではないでしょうか。
日頃からさまざまな情報を集め、疑問に感じたことは全てメモしておきましょう。保育以外のニュースの中にも意外なヒントがあるかもしれません。
卒論テーマが決まらないときの対策
上記の方法でも卒論テーマが決まらない、やりたいテーマがないという保育学生さん向けに、決まらないときのテーマの見つけ方を紹介します。
自分の得意なことや好きなことから関連づける
一見保育に関係のないことでも、自身の得意なことや好きなことを卒論のテーマに活かすことができるかもしれません。
例えば動画を見ることが好きであれば、「幼児期の動画サイト閲覧に関する親の意識と影響」や「幼児向け動画コンテンツの変遷」などのように、子どもと結びつけられそうです。
このように、自分の得意な分野と子ども、保育の関連性を見つけて研究テーマに設定するという決め方も検討してみてくださいね。
時事ニュースを見てみる
ニュース番組や新聞、ネットニュースからも、卒論テーマのヒントを得られるかもしれません。
気になるニュースがあったら、深掘りして調べてみましょう。
関心を持ったポイントを詳しく調べていくうちに、保育に関連するワードや子どもへの影響が見つかるかもしれません。
教科書やノートを読み返す
これまで授業で使用した教科書やノートを読み返して、卒論のテーマに応用できそうな話題がないか調べてみるのもよいでしょう。
ノートを見てみれば、自分が講義を聞いていたときの記憶がよみがえり、「そういえばあの話題は面白かったな」と卒論に活用できそうなテーマが見えてくるかもしれません。
また、授業で作成したレポートがあればそれを読み返してみるのもよいですね。
本や論文を読んでみる
図書館や本屋さんに赴いて、保育関係の書籍や雑誌、絵本を読んでみるのもよいでしょう。
参考になる本が見つかれば、そのまま卒論執筆の資料として使うこともできます。
また、保育に関する論文や、先輩の書いた卒業論文を参考にしてみても、イメージが湧きやすいかもしれません。
読むうちに、「どうしてこれはこうなんだろう」「この話題についてもっと知りたいな」と思うことがあれば、それを卒論テーマとして扱えそうですね。
教授に相談する
どうしても卒論テーマが決まらないと悩んでいる保育学生さんは、養成校の教授に相談してみるという決め方もよいでしょう。
その際、聞き方として「何も決まらないので教えてください」という聞き方だと、「自分なりにどう考えたのか」が伝わらず、印象がよくないかもしれません。
「○○に興味があるのですが」「○○と~~の2つで迷っていて」など、自分の考えを提示したうえで相談するとよいですね。
保育卒論の制作に向けて準備する3つのこと
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テーマがある程度決まったところで、卒論制作に向けての準備を始めます。
ここでは、卒論を書くために行う3つのことを紹介します。
先行研究を調べる
保育士養成校や保育士になるための学科のある大学などには、卒業生が書いた卒論が置いてあるようです。先生に確認して、自分のテーマに近い卒論を読んで参考にしましょう。
卒業生の卒論のなかに同じようなテーマがある場合、引用している参考文献が役立つかもしれません。その際、見つけた参考文献をストックしておくと、再度探す手間も省け、使いやすくなりますよ。
インターネット上にも、大学院生や学者の論文が載ったサイトがあります。
なかには自分の書きたいことがそのまま載っているような論文があるかもしれませんが、参考文献としてのみ使うようにしましょう。
参考資料を調べる
テーマに沿った参考文献をリストアップし、保育学生さんの卒論に必要なものからしっかりと読み込みます。
文献はインターネットや学校の図書館を利用するとよいでしょう。
参考になりそうな箇所には付箋やメモを残しながら読むと、後で確認するときに便利です。
論文の巻末につける参考文献リストは、先生の指示にしたがって記載しましょう。
【記載例】
書籍:著者、タイトル、出版年、出版社、引用したページ
論文:著者、タイトル、掲載雑誌、出版年、巻号、掲載ページ
参考文献に関する記載内容は、卒論制作と同時に整理しておくと、後で掲載ページを探すといった時間をかけずに済みますね。
調査・研究をする
参考文献を中心に論文を書くこともできますが、自分なりの調査や研究を入れると、よりオリジナリティーが出るようです。調査や研究の方法について紹介します。
アンケート・ヒアリング
対象者へアンケートを取り、それをまとめて資料にする調査方法です。
送付式のアンケートの他、保育士の方に直接お会いして話を聞くヒアリング式のアンケート調査も多いようです。
どちらの場合も、学校の先輩や実習先の保育士の方など、身近な人に協力を依頼するとよいかもしれません。
忙しい仕事の合間に回答をいただくので、アンケートの趣旨をしっかり伝え、質問の内容を吟味してから依頼するように心がけましょう。
感謝の気持ちをきちんと伝えることも大切です。
フィールドワーク
保育実習やボランティアなどを通して、実際に子どもとふれあった経験を卒論に活かす方法もあります。
調査を行う際はお世話になる園の先生に卒論のテーマを説明して、許可を取ることを忘れないようにしましょう。個人情報の取り扱いについての確認も必要です。
この方法を取り入れるときは、子どもがよろこんでできる遊びなどの保育活動を考えることができるとよいですね。
【フィールドワークによる調査・研究の例】
<例1>
「3歳児のおもちゃの研究」3歳児の特徴を活かしたおもちゃを作り、子どもたちに遊んでもらう。
子どもの様子を観察し、楽しめた理由や楽しめなかった理由などを考察する。改善点を活かしながら、あらためて3歳児の成長につながるおもちゃを作成する。
<例2>
「乳児が喜ぶ絵本」複数の乳児に絵本を読み聞かせ、それぞれの反応を見る。
人気の絵本は何かを調査し、その特徴を分析して、乳児にとって楽しい絵本を考察する。絵本そのものの他に、読み聞かせ方についても分析し、研究を深める。
このようなフィールドワークなら、子どもに楽しんでもらいながらスムーズな調査ができそうです。
依頼する園のスケジュールなどを確認し、保育の邪魔にならない時間を選ぶといった配慮を心がけましょう。
保育卒論の書き方ガイド
卒論制作に必要な調査・研究ができたら、いよいよ卒論を書き始めることになります。
卒論は文字数が多く、レポートとは構成が少し異なるので、書き方について簡単にまとめました。
1.構成を決め、下書きを書く
卒論全体の構成は、一般的に次のようになります。
はじめに:問題提起、テーマを選んだ背景、論文の目的
調査:文献、もしくは研究から得た調査内容
考察:調査によって得た結果を自分なりに分析する
結論:テーマのまとめ、自分の主張、今後の展望(残された課題)
このように大まかに4つの構成を立ててから下書きをします。
レポートとは違いそれぞれの文章が長いので、書いているうちに話がずれてしまわないように、しっかりと下書きをしましょう。
2.本文を書く
下書きをして内容を確認したら、いよいよ本文に入ります。
文章の書き方はレポートとほぼ同じですが、原稿の向こうに読み手がいることを想定し、客観的で伝わりやすい文章を心がけましょう。
【書き方のポイント】
自分の意見と、それを裏付ける資料を織り交ぜて書く
重要なことや大まかな内容を書き(序論)、次に詳細に移る(本論)
調査の段落では、誰が見てもわかるように具体的な数字やグラフを挿入する
まとめに入る前に、もう一度視点を変えてテーマを考察する(逆説を入れる)
このような書き方をすることで内容が充実し、卒論らしい文章になるようです。
3.推敲する
卒論の原稿が完成したら、指定された文字数にあわせて内容を推敲します。推敲するときには、文章の他に次のことも確認しましょう。
- 誤字脱字がないか
- 引用部分が整理できているか
- もっと内容を掘り下げるべきか
これらの点を見直して自分なりに納得のいくものが書けたら、一度先生に読んでもらうとよいかもしれません。
先生からアドバイスを受けることで、足りない点や掘り下げる部分がはっきりしてくるでしょう。
4.タイトルを決め、卒論を完成させる
タイトル
卒論を書き終えたら、タイトルをつけて完成させます。
卒論を制作する過程で、タイトルの候補をいくつか考えておくとよいかもしれません。
タイトルは卒論の顔とも言えるので、最もふさわしいものを選びましょう。
製本
原稿を印刷したら表紙を付け、学校の指定に沿って綴じます。表紙や目次などの装丁は、以下のように並べるのが一般的のようです。
1.表紙
2.内表紙
3.要旨(論文の内容を1ページ程度にまとめたもの)
4.目次
5.本文
6.文献(引用文献・参考文献)
7.付録
8.背表紙
ただし、学校や学部によって規定が異なるため、確認してから進めるとよいでしょう。
保育学生の卒論制作における留意点
卒論の制作や提出については、学校や先生によって異なる点があるようです。ここでは一般的な留意点について紹介します。
引用は正しく行う
卒論制作で利用した参考文献は、正しく引用するようにしましょう。卒論で引用してよい割合は全体の何割などと決められているようです。
また、引用の際の文献名などの記載の仕方についても先生から指示があるので、きちんとメモをしておくとよいかもしれません。
提出期日を守る
卒論には提出期日が決められています。
一日でも遅れると受けつけてもらえないこともあるので、ゆとりを持って提出できるようにしましょう。
提出記述を守るためには、卒論制作のスケジュールを作って進めるとよいかもしれません。
2月に提出する場合、4月頃にテーマを決め、保育実習前から調査や研究に取り掛かり、10月までに書き始めるといったスケジュールを組むと、時間に余裕を持って進めることができるでしょう。
提出方法を確認する
卒論の形式は学校や学部、先生によっても異なるので、提出方法は事前にしっかり確認しましょう。
指示通りに提出できないと、卒論として認めてもらえないこともあるかもしれません。
努力の結果がよい評価につながるように、細かい点まで確認すると安心です。
保育学生として学んだことをテーマに卒論を書こう
今回は、保育学生さん向けに卒論のテーマの選び方や決まらない場合の対処法、卒論の書き方について紹介しました。
卒論のテーマは自分が興味を持っていることや書きやすいものを選ぶと、スムーズに書き進められるようです。
絵本が子どもの育ちにどのように関係するのかや、子どもがよろこぶ遊びなどをテーマにすると、保育実習での子どもの様子や自分の経験を参考にできるかもしれません。
卒論テーマの決め方や例を参考に、学校で学んだことを活かして、論理的で内容の深い卒論を書けるとよいですね。