保育実習での指導案は、部分実習や責任実習での「何を学びたいか」のねらいや実習での課題をしっかりと定めた上で、事前に目標を決め、それに沿って環境構成や保育者の動きや援助について立案していきます。事前に実習園の保育理念や担当するクラスの現在の流れ、子どもたちについて理解を深めておくことも大切です。今回は、部分実習や責任実習の指導案について、見本例とともに解説します。

■目次
保育実習に必要な指導案とは
指導案とは
保育での指導案とは、子どもたちが意欲をもって活動に取り組むために、どのようなことを行うかを具体的にした計画書です。
活動や遊びで育まれるねらいや目的をまず定め、そのねらいに沿ってどのような活動をするかを決め、その活動をするために環境構成をどのように整えるかや、子どもの活動の展開を望ましい方向に導いていくために保育士がどのように援助していくのか、などを肉付けし、分かりやすく具体的にしたものです。
指導案の種類
実際に保育士となり、保育園や幼稚園などで作成する指導案には、次のような種類があります。初めに年間計画に着手し、月案→週案→日案と、順を追って細かく作りこんでいく流れになります。
長期指導案
4月からの一年間を通してたてる「年間計画」と、年間計画をさらに月単位に落とし込んだ「月案」の二種類があります。
・年間計画
4月~翌年3月までの1年間の生活を見通して立てる長期の指導案。1年後の子どもたちの成長の着地点を明確にイメージして計画する。
・月案
年間計画を具体化するために、1カ月の生活を見通して立てる指導案。1年後の子どもたちの姿から逆算し、どのような過程を経ることで1年後の姿が実現できるかを落とし込む。
短期指導
案 月案を実施するために、週単位に落とし込んだ「週案」、さらに週案を一日単位に落とし込んだ「日案」があります。・週案
月案実施のために、継続性を考えながら 1週間を見通して活動を具体化して立てる指導案。
・日案
その日の保育をどのように展開するのか、1日の子どもの生活時間を見通して細かく立てる指導案。
保育実習での指導案作成の手順と注意点
子どもたち一人ひとりが楽しみ、安全な保育が楽しめるようにするには、指導案はしっかりした手順を踏んで作成し、それに沿った事前準備が必要になります。しかしどんなにしっかりした計画を立てても、ハプニングはつきものです。臨機応変に対応できるような事前予測や、安全を確保するための細心の注意が必要です。
指導案の立案と再考
指導案は実習先の園や施設の指導案の形式に沿って立案しましょう。特に指示がなければ、所属している学校で学んだ形式で立案します。
実習園にはもともと長期計画に沿った流れで週案・日案が立てられています。その流れから逸れないようにするために、実習の指導案は実習実施日の約1週間前ほどまでに担当保育者に提出し、立案したものを見てチェックしてもらった上で、アドバイスを受けるといいでしょう。
担当保育者から指導された内容をもとに再考し、実施日の3日ほど前にもう一度提出する流れが多いようです。
副案の作成
天候は子どもの生活や遊びの内容に大きく影響します。外遊びなど天候で左右されるような保育内容やスケジュールには、悪天の場合の代替えとなる「副案」を用意しておく必要があるので注意しておきましょう。
子どもの様子や施設の決まりの確認
指導案を立案する前に、実習先の施設の決まりや、今回配属になるクラスの様子、受け持つ子どもたちの様子などを、事前に確認しておきましょう。
・子どもの名前の呼び方(姓か名前か)
・子どもたちの友だち関係
・クラスの雰囲気
・実習施設で現在取り組んでいることや遊び、はやっていることなど
・クラスの中で注意しておかなければいけない子どもの情報
・施設のきまりやルール
・配属クラスの中のきまりやルール
・教材や教具の置き場所や使い方
・昼食準備やトイレの行かせ方など
指導案に沿った教材、教具の準備
指導案を立案し担当保育者からのチェックが済んだら、実習中に使用するための教材や教具の準備をし、それらの安全性を確認します。
用意に時間がかかるもの
牛乳パックや空き箱など準備に時間がかかるものは、1週間前には子どもの家庭に連絡し回収できるように、通常よりも前倒しの指導案の作成が必要になるでしょう。
教材の数
教材の数は子どもの人数分、保育士と実習生の人数分、失敗分などを含めて、多めの準備が必要です。
保育実習(部分実習・責任実習)の指導案の記入に必要な内容
指導案のフォーマット見本例
指導案のフォーマットには学校や実習園によってさまざまな形式がありますが、おおむね次のような項目があります。
指導案の見本例

保育実習(部分実習・責任実習)の指導案の書き方
指導案に必要な「ねらい」
「ねらい」は、保育実習での実習期間を通して、子どもたちに身につけてもらいたい姿を具体的にしたもので、その際に知ってほしい心情・意欲・行動なども含まれます。
・子どもの発達に即して何を育てるのか
・子どもの生活に即した体験が得られるか
・自分は子どもの何が知りたいか など
活動内容
「活動内容」は、ねらいを達成するために指導していく事柄で、具体的な活動は勿論のこと、活動を通して体験される、達成感や成就感、満足感や充実感、などといった内面的 なことも含まれています。
・子どもが興味を持って取り組むか
・内容が調和がとれて発展的か
・内容に偏りがなく関連性があるか
・時季、社会生活行事を取り入れているか
環境構成と準備
保育環境の構成とは、「ねらい」や「内容」を明確に設定し、それをもとにどのような環境を準備するのか、必要なものは何かをさらに具体的にしていくことです。
子どもたちが発達し、成長する上で、さまざまなねらいに沿ったいくつかの環境を組み合わせ、子どもが自分からかかわっていきたくなるような環境を構成していきましょう。また、環境構成を考える前に、施設の環境、特色、用具、材料の安全性などをチェックする必要があります。
・安全で安心できる環境
・発達に応じた環境
・興味や欲求に応じた環境
など
保育形態・編成形態・対象児童の年齢
指導案は子どもの年齢や数、男女比、季節、時期、天候によって、立案が異なってきます。指導案をどのような状況のもと、どのようなねらいで立てたのか、その結果はどうだったのか振り返り、次に生かすPDCAサイクルの際にも重要な資料となるため、漏らさず記入しましょう。
・対象児は何人か
・個人かグループか
・形態は一斉(設定)保育か、自由保育で進めるか
保育の流れと時間配分
子どもの1日の流れを把握した上で、生活に即した取り組みを計画します。
1つの活動に子どもたちがどのくらい意欲をもって活動できるか、観察実習などの経験をもとに時間の目安を決めましょう。また、活動の流れは、子どもの気持ちにメリハリやリズムをつけることも大切なので、そういったことも配慮しながら立案してくといいでしょう。
子どもたち一人ひとりが十分に自分を発揮でき、実習生自身の個性も十分に出せるような柔軟性のある指導案を立案しましょう。
保育の導入・展開・まとめの一連の道筋を立てる
予想される子どもの言葉や動きなどをあらかじめ考えておき、記入しましょう。
・子どもが楽しく自発的に活動するには、どのような言葉がけをして意欲を満たしたらよいのか
・子どもの意欲を高めるためにはどんな働きがけが必要なのか
・子どもの反応、発案をどのように受け止め、それをどう展開(発展)させたらいいのか
・一人ひとりが楽しく満足し、喜べるようなまとめはどのようにしたらいいのか など

保育実習(部分実習・責任実習)の指導案を立案する際の注意点
保育実習には部分実習と責任実習があり、それぞれ指導案を作る際に注意するポイントがあります。
部分実習の意図や指導案の注意点
部分実習とは
部分実習は1日の保育の流れの中で、ある一部分だけを自分の指導のもとで保育を行う実習です。自分で準備したプログラムが、どのように子どもたちに受け止められているか、子どもの反応や行動を正確にとらえられるように十分観察し、その結果を実習日誌に記録することで、責任実習の際の指導案に生かすことができます。
部分実習での活動内容
保育園や幼稚園で1日を通して行われる、朝の会、帰りの会、絵本の読み聞かせ、制作、遊びなど、さまざまな活動の中から、実習のために学びたい活動を選びます。責任実習の前に経験しておきたい活動内容など、よく考えて活動を考えましょう。また、担当する子どもの年齢や季節に合わせた活動内容にすることも大切です。
部分実習での子どもの動き
部分実習の場合、流れの中の一部を中断することになるので、活動に入る前の子どもの動き、その後の子どもの動きをよくとらえることが大切です。
部分実習での立案の注意点
指導案を立てるにあたっては、配属されたクラスの担当保育者に相談しましょう。
そのとき、保育者が立てた月案や週案の流れに沿って立案するのか、課題を与えられて立案するのか、実習生が独自に、しかもその日のための日案でよいのかなど、細部にわたって確認することが必要です。
責任実習での指導案の書き方
責任実習とは
責任実習では、クラスの担任として1日のすべての保育を担当します。
責任実習での活動内容
部分実習で学んだ活動や遊びだけでなく、子どもの健康状態の確認や給食・着替え、排泄、午睡(昼寝)など、生活全般についての配慮が必要です。
部分実習での立案の注意点
責任実習では活動と活動の間のつなぎの時間の子どもの動きが重要になります。また、1日の指導計画作成から実際の保育までを一貫して行うため、念入りな準備が必要です。指導案の立案には、時間に余裕を持って作成に臨みましょう。
部分実習の指導案の記入例

保育実習の指導案は実習日誌の記録とワンセットで振り返りを
指導案は立案すること以上に、実践後の振り返りと考察が重要です。指導案の段階で予想できなかったことや、立案したもののできなかったことを1つ1つ振り返り、どうしてそうなったのかを考察して、次の指導案に生かすことが大切です。