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内田伸子先生インタビュー【後編】実習での心構えや保育士の仕事の魅力。内田先生が学生にいま、伝えたいメッセージとは

前回、子ども中心の保育を実現する重要性や保育者としてあるべき姿について、発達心理学を専門とし、現在IPU環太平洋大学教授としてご活躍する内田伸子先生にお話を伺いました。後編では、内田先生が保育実習に参加する学生さんに伝えたい、保育現場での心構えや保育士の役割について、保育士の仕事の魅力とともに迫ります。

内田先生の画像



「子どもと保育者のやり取り」を間近で見られる保育実習

ー前回、日本の保育実習期間が短いというお話がありました。やはり実際に現場を見ることは大切になりますか?また、実習などで見ておくべきポイントがあれば教えていただけますでしょうか。



実習など、現場をあらかじめ見ることは非常に重要になります。なぜなら子どもは保育者を見て育つからです。


だからこそ実習に参加したときは「子どもと保育者のやり取り」を観察してほしいと思います。先ほど伝えたように、子どもは保育者の行動や話す言葉などを見て育つからです。


これを私の著書「まごころの保育」では、”子どもは吸い取り紙”と表しているのですが、子どもたちは保育者の歩く姿、かける言葉などを非常によく見ていて、すべて自分のものにしているんです。


それは、目に見える”動き”だけでなく、保育者の工夫や感情など”目に見えないもの”も含まれます。


だから保育者は、歩き方さえも疎かにしてはいけません。

担当の保育士がドタドタ歩いていれば、そのクラスの子どもも同じようにドタドタ歩くようになります。


信頼関係を築けている先生と子どもの関係性であればなおさら、その先生の姿や行動、言葉というのが自然に子どもに移っていきます。

「子どもは大人の全てを内面化(自分のもの)していく」とすると、幼児教育は教育の原点だと思いますね。


実際、堀合先生も「保育者がどのような働きかけをしているのか」を実習で見てほしいと仰っていました。単に「楽しかった、子どもがかわいかった」という感想だけでなく、幼児教育のポイントを押さえてほしいというわけです。


だから実習に参加したときは、先輩保育者がどのように子どもとかかわり、言葉がけをし、それによって子どもがどう変わっていくのか、そのプロセスをしっかりと観察してほしいですね。



子どもと保育士

metamorworks/shutterstock.com


子どもを見るときに大切にしたい「レントゲンのような目」


Q.学生さんの場合、実習などで援助するタイミング、加減がわからない場合もあると思います。そのときはどんなところに注意するとよいでしょうか?



まず一番に「よく子どもを見ること」が大切になります。


子どもとかかわるうえでのスタート地点は「見守る」ということなので、いきなり「何しているの?」と声をかけてしまっては子どもの集中が途切れてしまったり、活動を中断させてしまったりします。


だから、「楽しそうに遊んでいるな」と思うときは見守り、「困っているな」と思ったときはヒントを与えたり、足場をかけたりしてほしいのです。


このとき保育者は、子どもとは対等なんだけれども「教育者」であることを忘れないでほしいですね。


堀合先生はこれを「レントゲンのような目で子どもを見る」と表していますが、子どもの中に起こっている葛藤やつまずきを洞察して、それを乗り越えるための援助をすることが大切と言えるでしょう。


足場かけが子どもの「気づき」につながったエピソード


ー「子どもの中に起こっている葛藤やつまずきを洞察して、それを乗り越えるための援助」について、具体的なエピソードがあれば教えていただけますか?



ある附属幼稚園の例をご紹介しましょう。

そこの幼稚園の園庭には、鯉がたくさん泳いでいる大きな池があります。ある日、年長組の男の子がその池の鯉を数え始めました。


「1、2、3…ダメだ、動いちゃう。もう一回!」と、何度数えてもうまくいかなかったんですが、3人の友だちを呼んできて、4人は池の端っこに等間隔で立ちました。


すると最初の男の子が「鯉って音のするほうに近寄ってくるから、みんなで拍手して呼び集めて、あとで数を合わせよう」と提案しました。そして、21匹、18匹、14匹…と自分に集まった鯉を数えたのですが、「じゃあ全部で何匹?」と考えた途端、困ってしまったんです。


そのとき保育者は、子どもたちが分担して数えている様子をそっと見守っていました。

そして子どもたちが「困っているな」とわかった瞬間、庭に敷いてあった玉砂利を一個拾って「これなら動かないんじゃないの?」と声をかけたんです。


最初の子どもはそれを受け取って少し考え、大きくうなずいたあと、自分の数えた分だけの玉砂利を拾い始めました。他の3人の友だちも同じように、自分の数えた分だけを拾い集め、4人分の大きな山ができました。


そして、声を合わせて「1、2、3……64」と最後の数が64となったとき、4番目の子どもが「あ!石は”全部”で64個ある!じゃあ池の鯉は全部で64匹だね!」と言いました。


これは数の概念である、分解と合成の成り立ちなのですが、それにより池の鯉が何匹いるか答えにたどり着いたというお話です。


このエピソードでは、子どもが困っている瞬間に保育者がそっと足場をかけているのがわかるでしょう。


動くものを”動かないシンボル”に置き換えてヒントを与えるだけでなく、玉砂利という名詞を使わずに「これ」という代名詞にしています。この意図には、「石」という個別名称を使うと、あくまでも石を数えることになってしまうという理由があります。


また、「これなら動かないんじゃない?」のように「動かないよ」と断言をしていない点もポイント。


つまり保育者は、子どもが困っていたり、つまずいたりしているときに、答えを教えたり解説したりするのではなく、子ども自身で考えられるよう促す(省察)ということです。


そうすることで、子どもたちは自分で考えて想像し、達成に向けて取り組むようになるでしょう。



”脇役”として子どもを見守る。保育士の役割と存在意義

保育園で遊ぶ子ども

milatas/shutterstock.com


ー子どもをよく見守りつつも、そのなかで教育も果たさなければならない保育士さんですが、内田先生が考える保育者の役割と存在意義について教えていただけますか?



保育者は”脇役”でありつつも、子どもが充実して園生活を送れるように支える役割があります。


しかしながら、ただ子どものそばについて脇役に徹するだけでは意味がありません。子どもが遊びに熱中できるように材料や環境を整え、子どもを肯定的に励まします。


そして、子どもの状況に合わせて保育者が実際に手を貸したり、行動のモデルを示したり言葉がけをして遊びを立て直したりしなくてはなりません。


つまり、子どもが熱中して活動に取り組んでいるかどうか、前よりも進歩したかどうかを適宜見極めるのが、保育者の仕事であり重要な役目だと思いますね。



ー保育者として働くうえで、大事にすべきことや心がけることはどんなことでしょうか?



繰り返しになりますが、「子どもをよく見守ること」です。

子どもが充実してその時間を遊び込めているか、遊びに熱中できるような環境を用意できるか、そういった視点で子どもを見守ることが重要になります。


時には、体は動いていなくとも、じっと保育者や他の子どもの動きに視線を向けている子どももいるかもしれません。子どもが動かないときほど、保育者は何もしていないと捉えて心配になり、何かしら働きかけようとするでしょう。


しかし、体を動かしていることだけが、子どもが活動に熱中している姿ではないのです。

だから保育者は、子ども一人ひとりの体の動きだけでなく、頭のなかや心の動きにも目を向けながら、「待つ」「見極める」「急がない(急がせない)」で見守ることを大事にしてほしいですね。



いま伝えたいメッセージと保育士の魅力

オンライン取材の様子 オンライン取材の様子

ー最後に、保育士・幼稚園教諭を目指す学生さんに伝えたいメッセージや保育士の仕事を一言でお願いします。


保育士は芸術家であり、科学者です。


また、保育というのはクリエイティブであり、「愛」と「創造」がたくさん詰まっています。


人が成長するために欠かせない役割を担い、将来よりより社会や文化を担ってくれる子どもを育てているわけですから、大変意義のある仕事だと思いますね。


それに、子ども一人ひとりは特別なオンリーワンなのです。みんな違ってみんないい。

だから保育士・幼稚園教諭を目指す学生さんたちは、子どもそれぞれの関心や好奇心、個性に寄り添う保育者を目指してほしいと思います。



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内田伸子先生プロフィール


 1946年群馬県出身。現在、IPU環太平洋大学教授、福岡女学院大学大学院客員教授、お茶の水女子大学名誉教授、十文字学園女子大学名誉教授を務める。

 専門は、発達心理学、言語心理学、認知心理学、認知科学、保育学。

 「保育士の仕事の魅力」をテーマに保育学生さんなどに講演会を行うほか、「まごころの保育―堀合文子のことばと実践に学ぶ―」(出版社 : 小学館)や「子どもの見ている世界: 誕生から6歳までの「子育て・親育ち」(出版社 : 春秋社)など著者としても活動。

 NHK「おかあさんといっしょ」の番組開発・コメンテーター、ベネッセの子どもチャレンジの監修、しまじろうパペットの開発などでも知られ、幅広く活躍している。

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