近年ニュースでも取り上げられている保育士不足、待機児童問題に対し、厚生労働省をはじめ各都道府県ではさまざまな取り組みを行っています。今後も、保育士不足はしばらく続くかもしれませんが、政府が改善のために打ち出しているいろいろな解決策は、保育士の働きやすさや待遇改善につながっていくでしょう。保育士が不足している理由とその対策について調べてみました。
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厚生労働省のデータから見る保育士不足の現状
近年、保育士不足といわれていますが、どのくらい不足し、現在働く保育士の数はどれくらいなのでしょうか。
保育士の人数
厚生労働省から発表されたデータによると、平成25年時点で41万人の保育士が働いています。内訳では、常勤の保育士が32万人、非常勤が9万人となっています。
保育士の離職率
平成25年の厚生労働省のデータによると、保育士の離職率は10.3%という結果になりました。この年のデータでは4.9万人が保育士として就職しますが、3.3万人が辞職しており、保育士全体の母数で大きな増加はなく、保育士不足が続いている状態です。
保育士が特に不足している都道府県
平成30年度の保育士の有効求人倍率を高い順に見てみると、東京都6.44倍、埼玉県4.76倍、大阪府と広島が同率で4.49倍でした。
有効求人倍率とは1人あたり何件の求人があるのかという数値です。飛び抜けて数値が高い東京都では1人あたり約6件の求人があるということになります。全国平均は3.2倍なので、そのほかの都道府県も特に保育士不足が進んでいることが分かります。
保育士不足の原因と理由
保育士の離職率は高く、離職後復帰しない人も多くいます。また、保育士資格を取得したにもかかわらず、約半数は保育士としての就職を希望していません。その理由はどのようなものなのでしょうか。
保育士を退職する理由
厚生労働省や東京都の資料から読み取ると、保育士を退職する主な理由として、賃金が低いことや業務量の多さが挙げられます。また、そのほかには、休暇取得のしづらさや、妊娠や出産といった理由で退職を選択しているようです。
保育士退職後復帰しない理由
保育士を退職し再就職として保育士を選択しない理由には、就業時間が希望と合わないことや、保育士業務のブランクへの不安があるからという結果になっています。
保育資格を取得しても保育士として就職しない理由
保育士養成施設卒業者の約半数は保育士としての就職を希望していない現状です。
「責任の重さや事故に不安があるから」「保護者との関係がむずかしそう」という思いから、保育士養成施設で保育士資格を取得したにもかかわらず保育士として就職をしない人が多いようです。
保育士が現状で改善を求める待遇
保育士が仕事に対して改善を求める待遇として、給与と賞与の見直しや職員数の増員、事務作業の軽減があります。国主導のアンケートで調査され、保育士によって挙げられた項目は、国や自治体が積極的に改善をしようとしていることでもあります。
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保育士不足の解決策
国を中心として各自治体では、保育士不足の改善のため、さまざまな取り組みを行っています。人材育成、就業継続支援、再就職支援、働く職場の環境改善という4つの柱を軸に保育士の人材育成と確保を進めています。
人材育成
保育士資格の取得をしやすくする
保育士の資格を取得しやすくするために、年1回だった保育士試験を前期と後期に分け、年2回行うようにしました。そのほかにも、幼稚園教諭免許状をもつ人は保育士資格取得の特例が適用されたり、指定保育士養成施設の受講費が支援されます。また、保育士資格を持たない人でも要件を満たせば、指定保育士養成施設の受講費の支援がされるようになります。
保育士の魅力を伝え、保育士を志すきっかけを作る
生活困窮者への就労訓練事業や、雇用保険受給者への公共職業訓練の活用促進を図り、保育分野への就職支援を促進します。
保育士の専門性の向上
保育所と指定保育士養成施設の連携を強化し、学生にとってより現場を理解できる研修が行われるように取り組みます。また、都道府県の各自治体により、保育士の専門性の向上のために研修を行います。
期待できる効果
保育士資格取得をしやすくすることで、保育士として働ける門を広くし、保育士の数の底上げにつながります。またそれに伴い、研修の充実による保育士の専門性の向上を図ります。
保育士の専門性と母数の増加により、一人ひとりの業務負担が緩和につながります。
就業継続支援
研修支援
新人保育士を対象に、就職前と後のギャップへの対応と保護者対応について研修を行います。保育士が研修を行う際の、代替職員の雇用費や、管理職者へのマネジメント研修費の支援を積極的に行います。
助成金の活用促進
保育士の就業継続を目指すために、各種助成金の活用を促進します。人材確保等支援助成金やキャリアアップ助成金などがあります。また、助成金の周知を行うために、自治体へのパンフレットの配布や厚生労働省ホームページの更新などを行います。
期待できる効果
キャリアアップ助成金により、保育所が積極的な保育士の正規雇用を目指すことで、常勤保育士の増加を見込めます。また、新人保育士ならではの保育業務に対する不安を取り除くことで、モチベーションの維持にもつながります。
再就職支援
保育士・保育所支援センターの活用
保育士・保育所支援センターでは潜在保育士に対して、保育士としての就職のサポートを行います。そのなかには、実技研修などがあり、保育士として再就職をする際のブランクへの不安の解消を試みます。
マッチング強化プロジェクト
ハローワークでは、保育所等の求人条件応募しやすく設定し、求職者が職場の現状や職場への理解を深められるようにしています。これにより、保育士として再就職するときのブランクへの不安や雇用時間のずれを緩和することが見込めます。また、職場体験会などの実施をすることにより、求職者と保育所の情報をお互いに明確にし、双方にとってギャップのないマッチングを目指しています。
期待できる効果
手厚い研修により、潜在保育士が保育士として再就職するときの不安の解消をすることができそうです。またマッチング強化により、自身が希望する就業時間のある保育所を見つけることができるでしょう。
働く職場の環境改善
処遇改善
保育士の処遇改善のために、キャリアアップ研修というものがあります。キャリアアップ研修は、分野別にカリキュラムが用意されており、研修を受けることにより保育士の専門性を高めつつ、保育士の経験年数や役職に応じて昇給につながります。
保育士経験3年以上の職務分野別リーダーで月額5000円の処遇改善、保育士経験7年以上の副主任保育士や専門リーダーは月額40000円の処遇改善を目指します。また、さらなる保育の質の向上を目指すため、全職員に対し、月額6000円程度の処遇改善を実施しています。
雇用管理改善を図るための取り組み
保育士管理者を対象に、保育士の離職防止につながる雇用管理の研修を行います。良い事例集や雇用管理マニュアルの作成をし、各保育所への提供をします。また、保育事業者が保育士の雇用管理をしやすいようにチェックリストの作成や助成金の活用を促進させます。
保育所と保育士・保育所支援センターの連携強化
各都道府県で実施されている保育事業者に対しての説明会などで、保育士・保育所支援センターの紹介をし、保育事業者と保育士・保育所支援センターのつながりを強化していきます。
期待できる効果
キャリアアップ研修により、現役保育士の退職理由である賃金の安さという悩みを解消していくことができそうです。雇用管理改善により、保育士事業者の事務作業の軽減をし、保育士マネジメントの質を上げ、保育士の離職防止につなげていきます。
出典:「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について/厚生労働省」
保育士不足の対策は今後も続く
厚生労働省をはじめ各都道府県の自治体が保育士不足という問題への対策を、人材育成、就業継続支援、再就職支援、働く職場の環境改善、4つの柱を軸にして積極的に行っています。さまざまな解決策により、以前よりも処遇改善や環境改善がされ、今後も保育士がより働きやすくなっていくことが期待できるでしょう。
現在、保育士業界は変化の時期です。ほかの職業にはないやりがいや体験をすることができ、より誇りを持って働くことができる環境作りが整うよう、今後の国や自治体発信される情報もチェックしていきましょう。