地域限定保育士試験とは、3年間は受験した地域のみで保育士として働くことができ、4年目以降は全国で働くことができる資格を取得する保育士試験です。全国どこに住んでいても受験可能なようなので、気になる学生さんもいることでしょう。今回は、地域限定保育士試験について、受験資格や試験内容、免除科目などを解説します。
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地域限定保育士とは
2015年に通常国会で成立した「地域限定保育士制度」をご存知でしょうか。
地域限定保育士制度とは、保育士不足が特に問題視された「国家戦略特区」と呼ばれる一部の地域で、人材の確保を目的に保育士試験の回数を増やす制度です。
地域限定保育士が生まれた背景や通常の保育士との違いについてくわしく説明します。
地域限定保育士が生まれた背景
地域限定保育士が生まれた背景には、どのような状況があるのでしょうか。
日本は現在、慢性的な保育士不足にあるといわれています。保育士の数を増やすためには、給与のアップや業務負担の軽減といった待遇改善ももちろん必要ですが、保育士資格取得者の母数も増やさなければならないでしょう。
しかし、これまで保育士になるための「保育士試験」は年1回のみでした。「保育士を増やす必要があるにも関わらず、試験回数は年に1回しかない」という現状を受けて、国会が2015年に成立させたのが「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」です。
この法律により、各自治体は従来の年1回の保育士試験に加えて、「地域限定保育士試験」を行えるようになりました。
地域限定保育士と通常の保育士資格の違い
地域限定保育士と通常の保育士資格の違いとはどういったところにあるのか説明します。
地域限定保育士は、以下のように説明されています。
- 地域限定保育士試験の合格者は、地域限定保育士として登録後、3年間は受験した自治体(特区区域内)のみで保育士として働くことができる資格が付与される
- 地域限定保育士の登録を行ってから、3年を経過すれば、全国で「保育士」として働くことができる
つまり地域限定保育士は「3年間は特定の地域(自治体)のみで働く保育士」のことです。
活躍の場所は限定されますが、全国共通の「保育士試験」を受験して保育士になった方と業務内容や待遇・給与などに変わりはないようです。もちろん3年間の中でも、当該地域内であれば乳児院や児童養護施設等どこの児童福祉施設でも、募集条件を満たして採用を行っていれば保育士として働くことができるとされています。
そして地域限定保育士として登録後、4年目以降は全国のどの地域でも働けるようになります。実際に保育士として働いていない場合でも、3年間が経過すれば自動的に全国で通用する保育士資格になることも魅力といえるでしょう。
通常の保育士試験と含めれば「最大で年3回」受験のチャンスがあります。その地域限定保育士試験に合格した方は「地域限定保育士」として受験した地域(自治体)で働くことできる保育士となります。
一般的な保育士資格取得者が、全国で働くことができる保育士に対して、該当試験に合格した自治体内でのみ保育士として働くことができる点が地域限定保育士の特徴といえます。
出典:「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律(国家戦略特別区域法 第12条の5第1項)」/内閣府
地域限定保育士試験について
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それでは、地域限定保育士試験について「一般社団法人全国保育士養成協議会の資料」をもとに、くわしく見ていきましょう。
地域限定保育士試験の受験資格
地域限定保育士試験に関する受験資格も、以下のとおり通常の保育士試験と全く同じです。
1.一般の大学、短期大学、専門学校等を卒業していること
2.高等学校、中等教育学校等を卒業し、かつ児童福祉施設で2年以上、2,880時間以上勤務していること
3.義務教育を修了し、かつ児童福祉施設で5年以上、7,200時間以上勤務していること(もしくは平成3年3月31日までに高等学校を卒業)
以上が受験資格です。
試験合格・保育士登録後は対象の地域でしか働くことはできませんが、出身地や現住所が対象地域である必要はありません。全ての対象地域の限定保育士試験を受験することができます。
地域限定保育士試験の実施自治体
地域限定保育士試験が行われている自治体について説明します。
保育士不足解消のための地域限定保育士試験ですが、47都道府県すべてで実施されているわけではないようなので、その点も見ていきましょう。
全国47都道府県すべてで実施されていない理由
これには2つの理由があるようです。
(1).地域限定保育士制度は、行政による強制力はなく「保育士確保をより行いたい地域」が自ら手を挙げて取り組む制度のため、各自治体に考え方によっては導入していない
(2).2015年(平成27年)から始まった制度だったが2016年(平成28年)には全国共通の「保育士試験」も前期・後期の「年2回」実施することとなり回数が増えたため、「地域限定保育士試験」を実施する自治体が減少している
以上の理由から、全国すべての都道府県で実施されているわけではないようです。
過去3年の実施自治体
過去3年の地域限定保育士試験の実施自治体を紹介します。
- 2017年(平成29年度)
神奈川県(独自実施)、大阪府 - 2018年(平成30年度)
神奈川県(独自実施)、大阪府 - 2019年(平成31年/令和元年度)
神奈川県(独自実施)、大阪府
となっています。
以上のとおり神奈川県や大阪府は積極的に取り組んでいる傾向にありますが、全国各地で毎年必ず行われている試験ではないようです。
なかでも神奈川県は、平成28年より全国で実施されている「年2回の保育士試験」に加えて、地域限定保育士試験を「年3回目」の試験として実施しているので、保育士になるチャンスがより多いといえそうです。地域限定保育士試験実施に関して、詳細については各自治体に問い合わせてみてくださいね。
地域限定保育士試験の内容
地域限定保育士試験の内容について説明します。
地域限定保育士試験の内容は、通常の全国共通の「保育士試験」と同様のものとなるため勉強内容や方法にも違いはないようです。
したがって、地域限定保育士試験の勉強でもあっても下記の科目を勉強するとよいでしょう。
保育士試験科目
保育士試験での試験科目については、以下のとおりです。
【筆記試験科目】
- 保育原理
- 教育原理及び社会的養護
- こども家庭福祉
- 社会福祉
- 保育の心理学
- 子どもの保健
- 子どもの食と栄養
- 保育実習理論
【実技試験科目】
- 音楽に関する技術
- 造形に関する技術
- 言語に関する技術
以上筆記試験は8科目、実技試験は3科目となります。
地域限定保育士試験においても、全国共通の保育士試験と同様に筆記試験を合格した受験者のみ実技試験に進めますが、地域限定保育士試験を行っている各自治体の多くは実技試験の代わりに、働きながら保育士資格を取得したい方への配慮として「実技講習」を実施し修了すれば実技試験を通過としているようです。
実技講習は3~4日程度の座学のほか、見学実習なども行われます。そのために、健康診断の結果や検査の実施、上履きなども必要となる場合もあるかもしれません。
地域限定保育士試験で免除となる科目と条件
全国共通の保育士試験で合格した科目は、地域限定保育士試験でも免除されます。また地域限定保育士試験で合格した科目も、合格後3年間は全国共通の保育士試験でも免除が可能となります。
ただし地域限定保育士試験に合格している場合は、通常の保育士試験における科目免除はなくなるようです。地域限定保育士試験を足掛けにして全国共通の保育士試験での合格を狙おう、という場合には注意が必要でしょう。
また「幼稚園教諭免許所有者」の方が地域限定保育士試験を受験した場合、最初から「実技試験」が免除となります。したがって筆記試験科目がすべて合格となった時点で「地域限定保育士試験合格者」となります。
ただ、上記の注意点と同じく地域限定保育士試験合格者となってからの全国共通の「保育士試験」を受験する時には、筆記試験の過去の合格科目は免除対象外となるので注意するとよさそうです。
試験の難易度
全国共通の保育士試験と、地域限定保育士試験とで、難易度は違うのでしょうか。
地域限定保育士試験においても、筆記試験・実技試験どちらも通常の保育士試験と同じ問題で、難易度や合格ラインも同じといわれています。
例として、2018年度の保育士試験合格率は、およそ20%のようです。
ただし対象地域によっては実技試験の替わりに実技講習や実習を受けることで、実技試験が免除される地域もあります。たとえばピアノができないという人や、絵を描いたり、読み聞かせが苦手だという人は、実技試験免除の地域限定保育士試験を受験するのも一つの選択肢といえそうです。
地域限定保育士として働くメリット、デメリット
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最後に、地域限定保育士のメリットとデメリットを紹介します。
メリット
地域限定保育士のメリットには、以下のようなことが挙げられます。
- 試験を受ける機会が最大で年3回と多くなり、合格するチャンスが増える
- 実技講習を受講し修了すれば、実技試験合格となる
- 地域限定保育士試験を行う自治体以外の地域に住んでいる方でも受験は可能
- 地域限定保育士試験にて合格した地域で一度も保育士として勤務しなくとも、保育士登録後から3年経過すれば全国で働ける保育士となれる
地域限定保育士試験は、通常の保育士試験よりも回数が多いことで、保育士になれるチャンスが増えるところがメリットのようですね。また保育士登録から3年経過後は全国どこでも働ける保育士になれるところもポイントといえるかもしれません。
デメリット
次に、地域限定保育士のデメリットを紹介します。
- 出願ごとに受験費用がかかる
- 実施する自治体が定まっておらず、実施発表も遅い為スケジュール管理が難しい
- 3年間は合格した地域(自治体)でしか働くことができない
保育士として働ける地域が3年間は限定されるので、引っ越しなどの予定が入りそうな場合は不利といえるかもしれません。ただし、今住んでいるところや今後も住み続ける予定のあるところであれば問題はなさそうですね。
地域限定保育士試験のチャンスを活かして、保育士を目指そう
今回は、地域限定保育士とは何かや試験の実施自治体や内容、メリットとデメリットなどについて紹介しました。
地域限定保育士試験が実施されるようになったことで、保育士試験のチャンスが最大年3回に広がりました。合格すれば、3年間は活躍の場所が限定されますが、地域・社会貢献に繋がる保育士として働くことができるようです。
地域限定保育士の創設だけでなく、国も自治体も保育士の処遇改善などさまざまな保育士確保策を進めているようです。こうした追い風の状況をプラスにとらえ、試験に臨んでみてはいかがでしょうか。