年齢の垣根を越え、発達段階の異なる子どもたちが交流できる場として、異年齢児保育(縦割り保育)を取り入れる保育園が増加傾向にあるようです。その意味や遊び方などについて知ることができれば、入職後の保育に活かすことができるかもしれません。今回は、異年齢児保育のねらいや遊びのアイデア、配慮するポイントを紹介します。
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■目次
異年齢児保育とは
異年齢児保育とは、「〇歳児クラス」のように年齢ごとにクラス分けをするのではなく、さまざまな年齢の子どもでグループやクラスを作って一緒に保育を行うことを言います。
異年齢児保育のほか、「縦割り保育」や「混合保育」などとも呼ばれるようです。
異年齢児保育のクラス分けや保育の方法は各保育園によって異なり、以下のようにさまざまな形で取り入れられています。
- 日によって縦割り保育と年齢ごとの横割り保育を分けて保育する
- 0~2歳児、3~5歳児の2つのクラスに分けて保育する
- 課外活動や食事・おやつの時間のみなど、一日の数時間を異年齢児保育にする
- クラスを配置せず、園全体で保育をする
なお、通常は年齢ごとの横割り保育を行っている保育園でも、園のイベント時や延長保育の時間のみ縦割り保育を取り入れている、というケースもあるかもしれません。
異年齢児保育のねらい
では、異年齢児保育にはどういったねらいや意味があるのでしょうか。
人との関わりを学ぶ
異年齢の子どもと関わることによって、年下の子どもに優しくする気持ちを持ったり、年上の子どもの行動を見て自分もやってみようという意欲を抱いたりするようになるかもしれません。
大人が遊び方を伝えたり、「小さな子には優しくしてね」と言葉で伝えたりしなくても、子どもが自分達で学んで育っていける環境であると言えるでしょう。
保育園でその関わりの手助けをすることで、人間関係の基礎を作るというねらいがあります。
年齢の枠を超えて、共に成長する
近年、少子化によって年齢の異なる子ども同士の関わり合いが減少していると言われています。以前は、兄弟姉妹、ご近所の子ども同士、みんなで遊ぶ姿が多くみられました。
このような関わり合いが少なくなってしまった現代で、子どもたちが共に学び合い、成長し合うことを目的として「異年齢児保育」が提案されたのです。
子どもの社会性や協調性、思いやる気持ちなど、縦割り保育を通して生きる力を育んでいくことが期待されています。
異年齢児保育を実施するメリットとデメリット
次に、実際に縦割り保育を取り入れた場合、どんなメリットやデメリットがあるのか、具体的に確認していきましょう。
メリット
まずは異年齢児保育のメリットを紹介します。
成長の差や個人差が目立ちにくい
幼児期は成長のスピードに差が出やすいかもしれません。たとえば、同学年でも4月生まれと3月生まれの子では発達状況が大きく異なることもあります。
横割り保育で周りに同年齢の友達しかいない場合、子どもたちはこういった成長の差にコンプレックスを感じてしまう場合もあるでしょう。
しかし、縦割り保育ならそもそも年齢の幅が広いので、成長の差が目立ちません。そのため、子どもの劣等感を防ぐことにもつながると言えるでしょう。
友だちの幅や居場所が広がる
年齢ごとの横割り保育では、同年齢の友だちが多くなりがちです。しかし、縦割り保育を取り入れることで、年上の友達・年下の友だちを作ることもできるかもしれません。
友だちの幅が広がれば、子どもたちは自分の居場所を増やすことができるでしょう。
デメリット
では、異年齢児保育のデメリットはどういったものなのでしょうか。
異年齢との交流がストレスになる場合も
異年齢児保育によって、子どもがストレスを感じてしまう場合もあります。
年下の子が年上の子にいじわるをされてしまう、年上の子が年下の子に順番を割り込まれてしまうなど、年齢の異なる子ども同士の交流によってトラブルが起きることもあるかもしれません。
普段、異年齢の子とあまり接する機会のない子どもは、このような状況に不安を感じたり、イライラしてしまったりすることもあるでしょう。
保育士さんは、子どもたちを細やかに観察し、ストレスを感じているような場合にはしっかりとフォローすることが大切です。
発達段階の差に配慮が必要なため、保育士にも負担がかかる
異年齢児保育では、発達段階が異なる子どもたちが集まるため、全員が楽しめるような工夫が必要になります。
年上の子に合わせた保育内容だと、年下の子が理解できず遊びに入ってこられなくなってしまいますし、反対に、年下の子にばかり合わせてしまうと年上の子が物足りなく退屈してしまうこともあるでしょう。そのため、年上の子も年下の子も興味を持てる保育内容を検討することが必要となり、その分保育士に負担がかかることもあるかもしれません。
では、異年齢児保育においても子どもたちがみんなで楽しめる遊びやゲームはどういったものなのでしょうか。
異年齢児保育に活用できる遊びのアイデア
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ここからは、実際に異年齢児保育に活用できる集団遊びや室内遊びのアイデアを以下のジャンルにわけて紹介していきます。
- 運動遊び
- ゲーム遊び
- 製作
それぞれの遊び方の例を1つずつ見ていきましょう。
異年齢児保育を行っている保育園への実習や入職予定のある保育学生さんは参考にしてみてくださいね。
運動遊び
最初に、運動遊びの例を紹介します。
手つなぎおに
<遊び方>
1.最初のおににタッチされた人はおにと手をつなぎ、一緒にみんなを追いかける。
2.おにはどんどんみんなをタッチしていき、手をつないでおにを増やして最後の一人になるまで続ける。
本気のおいかけっこというより、楽しみながら大人数で行うおにごっこです。
手をつないで走るため転びやすくなるので、園庭やホールなど走りやすい場所で行うとよいでしょう。また体操服などの動きやすい服装を用意するとよさそうです。
最初のおにだけ帽子をかぶったり、帽子の色を変えるなど最初にルールを決めておき、見てすぐに誰がおにかわかるようにするなどの工夫をしたりすることもポイントといえそうです。
しっぽ取り
<遊び方>
1.まず異年齢の子ども同士でペアになり、ズボンにしっぽになるもの(紙テープ、鉢巻き、なわとびなど)をはさむ。
2.スタートの合図で自由に動き回り、年長児がほかの年少児のしっぽを取りに行きます。しっぽを取られたペアは座る。
大きい子は、しっぽを取られないように小さい子を守りながら動くので大変ですが、力を合わせて勝つという気持ちが高まり、チームワークが生まれる集団遊びの一つかもしれませんね。
しっぽだけでなく、年少児が転んだりケガをしたりしないよう守ってあげることを、年長児に声かけしながら行うとよいでしょう。
この遊びもみんなで走り回るので、動きやすい服装で、園庭など広いスペースを確保した上で行うとよさそうです。
ボール送りリレー
<遊び方>
1.チームごとに列を作り、頭上をボールが通るように後ろに送っていきます。
2.列の最後までいったら、今度は股下を通って前に送ります。
背の高さの違う子どもが混在しているので、なかなか難しく、とくに小さい子に合わせる年長児は大変かもしれません。それだけに盛り上がること間違いなしの遊びです。
グループのメンバーを変えれば、何度でもくり返し楽しむことができるでしょう。
この遊びは保育室など狭いスペースでも行うことができるため、簡単に取り組めるかもしれません。
ゲーム遊び
次に、ゲーム遊びの例を紹介します。
イス取りゲーム
<遊び方>
1.円形に並べた椅子の外側に立ち、みんなで同じ方向を向いて音楽に合わせて椅子の回りを歩く。
2.音が止まったら、椅子に座る。椅子に座れなかった人は抜け、椅子をまた1つ減らして、繰り返す。
イス取りゲームは、雨天時などの室内ゲームとしてもおすすめです。
大人数で楽しむ場合、減らす椅子の数は1つでなく2つ、3つずつ減らしたり、音楽によって歩くスピードやリズムも変えたりするなどのアレンジを加えても楽しめるかもしれません。
フルーツバスケット
<遊び方>
1.イスを円形に並べて内側に座り、椅子の真ん中に立つ人を1人決める。
2.立つ人も含めて、子どもたちをそれぞれ3〜4種類のフルーツにわける。
3.真ん中に立つ人は、組みわけられたフルーツのなかから、好きなフルーツの名前を言う。
4.自分のフルーツの名前を言われた人は、座っていた席から離れて、他の空いている席に座る。この時、真ん中に立っていた人も空いている席を探して座る。
5.座れなかった人が真ん中に立ち、違うフルーツの名前を言い、繰り返す。
自分のフルーツを覚えるのが難しい場合は、フルーツの種類を2つなどにして、覚えやすくするとよいでしょう。
フルーツ以外にも、野菜や動物、乗り物などに変えても面白いかもしれませんね。
じゃんけん列車
<遊び方>
1.音楽を流し、その音楽に合わせて室内を自由に歩き回ります。
2.音が止まったら、近くにいる友だちとジャンケンをする。
3.ジャンケンに負けた人は、ジャンケンに勝った人の後ろにつき、肩に両手をかける。
4.1~3を繰り返してどんどん列を長くしていき、最後に列の先頭になった人がチャンピオンとなります。
ピアノなどがあれば道具も必要ないので、簡単に取り組める室内遊びの一つです。
じゃんけんの勝ち負けは運なので、年齢に関わらず平等に楽しめるかもしれませんね。
製作
最後に、異年齢の子どもたちがいっしょに楽しめる製作の例を紹介します。
魚釣り
<遊び方>
1.新聞紙や飲み物の空き容器などを使い、1人ひとりがオリジナルの魚を作る。
2.釣り竿を作り、魚釣りゲームを楽しむ。
製作から室内ゲームへと発展できる例です。
魚の形状が違えば釣りやすさも変わるかもしれないので、いろいろな素材を使って作ってみても面白いかもしれませんね。
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手形、フィンガーペイント
<遊び方>
1.大きな紙を用意し、下書きは保育士さんがしておく。
2.子どもたちが絵の具をつけた手の平や指先で絵を描いていく。
こいのぼりやクリスマスツリー、海や電車を表現するなどテーマを決めて取り組みましょう。何枚かの紙を用意し、グループごとで描いてから貼り合わせ、大きな一つの作品を作ってみてもよいかもしれません。
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ここまで、異年齢児保育に活用できるふれあい遊びのアイデアを紹介しました。
最後に、異年齢児保育において配慮するポイントを説明します。
異年齢児保育において配慮するポイント
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異年齢児保育において配慮するポイントとはどういったものなのか見ていきましょう。
月案などの指導案を書く際に、保育士の援助の仕方として参考にしてみてくださいね。
安全面に配慮し細心の注意を払う
異年齢の子どもが集まる縦割り保育にはより危険が伴う場合があります。外遊びをする場合には、年齢によってできることが異なるので、それぞれの子どもの安全に気を配ることがポイントの一つです。
年上の子が年下の子の面倒をみるといっても、年の差はわずか1~2歳。
年下の子を抱っこしようとして転んだり、落としてしまったりするかもしれません。
「年下の子抱っこしたいときはひざの上で抱く」といった約束を作るなどの工夫をしながら、常に細心の注意を払って子どもたち全体を見守ることを意識しましょう。
年齢、発達に合った遊びの設定をする
年齢によって、興味のある玩具や発達に適した遊びも違うでしょう。
異年齢児保育では、怪我や事故の危険がないように小さい子どもに合わせた設定になりがちです。
必要に応じてスペースや使用する部屋を替えるなど、保育士さんが事故に繋がらないような配慮のもとで、年齢に見合った遊びや玩具が提供できるようにすることが大切です。
大きい子の負担にならないようにする
大きい子どもにとって、小さな子どものお世話をすることを負担に感じてしまうと、小さな子どもへ強く当たる姿も出てきます。それでは、異年齢児保育のメリットがなくなってしまいかねないでしょう。
大きい子どもが負担に感じないようにするためには、小さな子どものお世話を義務にせず、子どもたちが自主的に関わっていけるように配慮することが大切です。
保育士さんは、年下の子の対応に困っている子どもがいたら声のかけ方を伝えるなど、年上の子の負担がかかりすぎないようフォローするとよいかもしれませんね。
子どもたちへの配慮をしながら、異年齢児保育を楽しもう
今回は、異年齢児保育(縦割り保育)のねらいやメリットとデメリット、ふれあい遊びのアイデア、保育士が配慮するポイントを紹介しました。
異年齢児保育を取り入れることで、子ども同士が共に学び合い、成長していく姿を日々感じることができますし、何よりも保育の幅が広がって保育士さん自身のスキルアップや成長にもつながっていくことでしょう。
異年齢児保育のメリットとデメリットの両面をしっかり踏まえた上で子どもたちへの配慮をし、保育士さん自身も楽しんで関わってみてくださいね。