学童保育とは、小学校が終わってからの放課後や長期休暇中など保護者の代わりに子どもたちと過ごし、見守ることをいいます。保育学生さんの中には、学童保育を就職先の一つとして検討している人もいるのではないでしょうか。今回は、学童保育の目的や背景、運営形態と種類、現状と課題とその対策などを紹介します。
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学童保育とは
学童保育とは、小学生を放課後や学期間休業中、保護者の代わりに預かって保育サービスを提供する事業を指します。
保護者が日中働いているなどの理由で、放課後に子どもを見ることのできない家庭が主に利用しています。正式名称を「放課後児童健全育成事業」といい、主に厚生労働省が所轄しています。
まずは学童保育の目的と背景から見ていきましょう。
学童保育の目的
学童保育の目的は、厚生労働省の「学童保育の目的・役割がしっかりと果たせる制度の確立」によると、以下のように定義されています。
①共働き・一人親の小学生の放課後(土曜日、春・夏・冬休み等の学校休業中は一日)の生活を継続的に保障することを通して、親の仕事と子育ての両立支援を保障すること。
②学童保育は、年間278日、1650時間にも及ぶ家庭に代わる毎日の「生活の場」 成長期にある子どもたちに安全で安心な生活を保障することが学童保育の基本的な役割
出典元:学童保育の目的・役割がしっかりと果たせる制度の確立/厚生労働省から抜粋
小学校の子どもが過ごす生活の場として、おやつの提供や宿題の見守り、遊びや大人との会話の時間といった、家庭で当たり前のように設けているものを行う場とすることを目的としています。
学童保育が必要とされる背景
はじめにも説明したように、正式名称を「放課後児童健全育成事業」といいます。
以前は共働きの世帯が少なく、親が仕事に就いていても大家族で住んでいたため、誰かしら子どもの面倒を見てくれる人がいたかもしれません。
しかし現代は女性の社会進出が進み、祖父母とは別に住む家庭が増え、地域的なつながりも少なくなったといわれています。
共働きの世帯が増え、核家族化も進み、兄弟がいない場合には放課後、帰ると子どもが家に一人きりという状況も多くあるようです。近所づきあいも希薄になったことや、近くに遊び相手になる友だちが少ないということから、何かあったときに対応してくれる大人がそばにいないこともあるかもしれません。
このような変化は、小学生の放課後事情にも大きな影響を与えているといえるでしょう。
子どもたちへの影響を少しでも低減させ、自宅以外でも安心して過ごせる場所の提供のため、また保護者においては子どもの小学校入学後も勤務を継続することができるようにするため、以前より学童保育の需要が高まってきたことが背景にあるのかもしれません。
学童保育を利用できる子ども
学童保育に入れる基準は運営主体や施設によって異なります。
ある公立児童クラブを例にとってみると、通所の資格は市内に住所を有し、家庭において保育を受けることが困難な児童が対象とされているようです。
市の窓口で申請書と合わせて就労状況証明書など、状況を証明できる書類を提出しなければならない場合もあるかもしれません。
一方、民営の学童保育は特に基準を決めていないこともあるようです。
習い事と同じような感覚で利用できる施設もあり、自由度が高く、いろいろなアクティビティがあることがメリットですが、それだけ料金がかかるのがデメリットといえるでしょう。
学童保育の運営形態と施設の種類
次に、学童保育の運営形態と施設の種類について紹介します。
運営形態
学童保育施設には、公的機関が設置した(公設)のものと、民間事業者が設置した(民設)のものがあり、運営の形態によって「公設公営」「公設民営」「民設民営」の3種類にわけられます。
公設公営
自治体が設置し、直接運営しているものです。
以前はこの事業形態が最も多かったのですが、自治体が人件費を削減するために運営を民間に委託するケースが増えつつあるようです。
公設民営
自治体が設置し、運営をNPOや民間企業、父母会(保護者自身によって構成された組織)などに委託しているものです。現在はこの事業形態が最も多くなっています。
民設民営
民間企業や学校法人、NPO、父母会あるいは個人が設置し、運営しているものです。行政から運営費補助を受けているものもあります。
施設の種類
学童保育の施設の種類として、以下のようなものが挙げられます。
放課後児童クラブ
厚生労働省が管轄しており、児童福祉法によって規定された福祉事業です。
保護者が就労などの理由で子どもの面倒をみることができない家庭が対象で、家庭に代わる生活の場所として健康管理や安全な遊びの場の提供、おやつの提供などを行うのが主な事業内容となるでしょう。
実施場所は小学校の余裕教室や児童館、公民館などです。放課後児童支援員の1名以上の配置が義務付けられています。
自治体によりますが月額5,000円~10,000円程度の利用料を設定しており、原則として年間250日以上開所しています。
休日だけでなく、祝日や長期休暇中も職員の出勤が必要となるようです。
放課後子ども教室
文部科学省が管轄しており、社会教育事業として行っているため、厳密には学童保育(放課後児童健全育成事業)には含まれません。
すべての小学生を対象とし、安全・安心な子どもの居場所として体験活動やスポーツ、交流活動などを提供しています。
小学校の余裕教室を実施場所とし、地域ボランティアや退職教員などがスタッフとして配置されており、利用料はかからないとされています。
実施形態は断続的・単発的で、年間の開設日数は平均120日程度であり、開設時間も放課後児童クラブよりは短くなっているようです。
民間学童保育
民間企業や学校法人などが行っている事業です。親の就労有無は問わず、年齢制限がないものが多く、利用条件も特にないとされています。
最近は学習塾や習い事教室、スポーツ教室などの業種が参入しており、さまざまなプログラムを用意して子どもが希望するものを選択できたり、夜遅くまでの預かりや夕食の提供をしたりするなどサービスが多様化しているようです。
また、公設のものに比べて学習支援に重点を置いている施設も多いかもしれません。
職員の配置には特に規定がありませんが、保育士や幼稚園教諭などの資格保持者がスタッフとして雇用されていることが一般的です。
利用者の料金は公設の施設よりは高く、月額40,000~60,000円程度と設定されているようです。開所・休所日についても運営団体によってさまざまでしょう。
学童保育で働くためには
保育学生さんの中には、学童保育を就職先の候補の一つとして考えている方もいるかもしれません。
学童保育で働くためには、どのような資格やスキルが必要なのでしょうか。
スタッフの資格
まずはスタッフの資格について紹介します。
放課後児童支援員
放課後児童支援員とは、2015年に新しく創設された学童保育での指導のための資格です。
内閣府によって定められた「子ども・子育て支援新制度」によると、放課後児童支援員を支援の単位ごとに2人以上配置(うち1人を除き、補助員の代替が可能)することを義務付けています。
放課後児童支援員の受講対象となるのは、保育士や社会福祉士、幼稚園教諭の資格を持っている人や、高校卒業以上で2年以上児童福祉事業に従事した人などで、都道府県が主催する研修を受ける必要もあるようです。
学童保育士
学童保育士に必要な資格は特にないようです。
放課後児童支援員の補助として、業務に当たることができるとされています。
ただし、保育士や社会福祉士の資格、教員免許などがあれば採用されやすいかもしれません。実際に学童指導員の多くは、保育士や教員の資格を持った人が多いようです。
身につけておきたいスキル
では、実際に学童保育で働きたいときどのようなスキルが役立つのでしょうか。
入職前に身につけておきたいスキルとして、以下のようなことが挙げられます。
- 子どもへの声のかけ方
- 学習指導のやり方
- 施設内で行うスポーツのルール説明や補助の仕方
- 工作やものづくりのスキル
- 社会人としてのコミュニケーション能力
子どもたちの放課後の生活を支援するためにも、学習やスポーツ指導などのスキルを身につけておくと実際に子どもたちと関わるときに役立つかもしれません。
また、放課後児童支援員や学童指導員は、保護者や同僚など周りのさまざまな方と円滑に関わることが求められます。地域の方や小学校の職員との情報交換を行う役割もあるので、社会人としてのコミュニケーション力もつけておくとよさそうです。
学童保育の現状と課題
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次に、学童保育の現状と課題について紹介します。
施設数と待機児童数
課題の1つめは、施設数と待機児童数の課題です。
厚生労働省が行なった調査では、2019年5月時点での学童保育数は2万5,881カ所で、入所児童数は129万9,307人となっており、いずれも過去最多となっています。
同調査によると、待機児童の数は1万8,261人、前年比982人増で依然として多く、解消に至っていないとされています。学童保育の利用を希望する人は年々増加しており、需要に比べて供給が追いつかず、施設を利用できない待機児童が増えつつあるようです。
施設数そのものは増加していますが、それ以上に学童保育登録児童数が増えているのが現状といえるでしょう。
開所時間
保育所と比べて学童保育のほうが、開所時間が短いという問題もあるようです。
平日に18時30分を超えて開所している放課後児童クラブ数は1万3,975カ所と、全体の55%程度になります。
19時以降も子どもを預けるために、ファミリーサポートやほかの民間保育サービスを併用する家庭もあるといわれています。
地域差
公営・民営の学童保育が豊富でニーズにあわせて選べる地域もあれば、学童保育そのものがほとんどない地域もあります。
待機児童やその理由についても地域によって異なるのが現状のようです。
出典:放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況/厚生労働省 2019年度
学童保育における課題を解消するための対策
では、学童保育における課題を解消するための対策として、どのようなことが行なわれているのでしょうか。
受入児童を増やす
厚生労働省は、2018年に発表した「新・放課後子ども総合プラン」の中で、2023年度末までに学童保育で受け入れられる子どもの人数を今より約30万人増やすことを目標としており、民間企業も学童保育事業に積極的に参入しています。
また全小学校区(約2万か所)で「放課後子ども教室」と「放課後児童クラブ」を一体的に、または連携して運営し、うち1万か所以上を一体型で実施することを目指していくようです。
すべての児童が安全・安心に過ごし、多様な体験・活動を行うことができるよう学校の余裕教室などを徹底活用していくことや、新たに開設する放課後児童クラブの約80%を小学校内で実施することを目標に掲げています。
適正規模化を目指す
学童保育における質の向上として適正規模化も進められているようです。
利用児童数が71人以上の大規模施設では、子どもたちに以下のような深刻な影響を与えているとされています。
- 事故や怪我が増える
- 騒々しく落ち着かなくなる
- 子どもたち同士がトゲトゲしくなり、ささいなことでケンカになる
- 指導員の目が行き届かない
このような現状を受け、内閣府は、集団の適正規模は40人程度までとし、2010年から71人以上の大規模施設への補助金を打ち切りました。
必要とする子どもたちすべてが適正規模の学童保育に入所できるように、国と地方自治体には、緊急に新設・分割が進むような手立てが求められているようです。
この対策により、子どもの主体性を尊重し、子どもの健全な育成を目指す学童保育の役割を徹底して、自主性や社会性のより一層の向上を図るとしています。
出典:学童保育の目的・役割がしっかりと果たせる制度の確立を/厚生労働省 2009年
学童保育とはなにか、目的や現状を把握して就活に活かそう
今回は、学童保育とは何かや必要な資格、現状と課題、その対策について紹介しました。
学童保育は「仕事と育児の両立」を重視する社会情勢を追い風にして、需要が大きく伸びているといわれています。それに応じて、行政は、福祉事業を提供する厚生労働省と教育事業を提供する文部科学省が連携して児童の放課後の居場所づくりを積極的に行っているようです。
放課後の子どもたちをサポートする重要な役割として、放課後児童支援員や学童保育士となることも就職活動の視野に入れてみてはいかがでしょうか。