10の姿「言葉による伝え合い」の内容についてくわしく知りたい保育学生さんもいるかもしれません。この視点は、子どもが豊かな言葉や表現を身につけ、伝え合いを楽しむようになる姿とされています。今回は、10の姿「言葉による伝え合い」の視点の具体内容や保育士の援助の仕方、実践事例などを紹介します。
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■目次
10の姿における「言葉による伝え合い」とは
10の姿における「言葉による伝え合い」とは、子どもが豊かな言葉や表現を身につけ、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる姿を示しているようです。
そもそも10の姿とは、そもそも幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿とは、2017年に幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改定されたことによりつくられたもので、2018年4月より施行されました。
10の姿は、卒園(=小学校入学時)の時点で育ちつつある子どもの姿を、10個の具体的な視点から捉えて明確化したもので、以下の項目を設定しています。
<10の姿の視点>
①健康な心と体
②自立心
③協同性
④道徳性・規範意識の芽生え
⑤社会生活と関わり
⑥思考力の芽生え
⑦自然との関わり・生命尊重
⑧量・図形、文字等への関心・感覚
⑨言葉による伝え合い
⑩豊かな感性と表現
保育園や幼稚園における生活の中で、保育士さんは子どもの資質や能力を育てる保育を実践していることでしょう。その保育内容を「10の姿」の視点で振り返ることで、子どもの具体的な姿を小学校へ伝えやすくなったり、今後の学校生活へスムーズに移行できたりするかもしれません。
今回は、10の姿「⑨言葉による伝え合い」に着目して、概要と保育士の援助、事例を紹介します。
10の姿「言葉による伝え合い」の視点と内容
10の姿「言葉による伝え合い」にはどのような視点や具体事例があるのでしょうか。
文部科学省や厚生労働省の資料を参考に、視点や具体事例をくわしく紹介します。
視点
- 言葉を通して先生や友達と心を通わせ、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身につける。
- 思い巡らしたことなどを言葉で表現することを通して、言葉による伝え合いを楽しむようになる。
このように、保育士さんや友だちとの言葉でのやりとり、絵本の読み聞かせなどを通して言葉の理解や発語の意欲を育むことが視点につながる保育といえるでしょう。
具体内容
- 相手の話の内容を注意して聞いてわかったり、自分の思いや考えなどを伝える相手や状況に応じて分かるように話したりして考えをまとめるようになり、言葉を通して先生や友だちと心を通わせるようになる。
- 遊びや生活の中で文字などが果たす意味や役割、必要性が分かり、必要に応じて具体的な物と対応させて、文字を読んだり、書いたりするようになる。
- 絵本や物語などに親しみ、自分の未知の世界に出会うなどしながら興味を持って聞き、思い巡らすなどの楽しさに浸ることを通して、その言葉の持つ音の美しさや意味の面白さなどを友達と共有するようになる。
- 園生活の中で、新たな環境との出会いを通して、新しい言葉や表現に関心が高まり、それらの獲得に楽しさを感じるようになる。
子どもたちは心を動かされるような体験を経て、「言葉で伝えたい」という思いをもつでしょう。そして徐々に、相手の意見を聞き、自分のなかで考えてから意見を言う、というやりとりができるようになるかもしれません。
保育士さんは子どもたちに言葉で伝える楽しさを教えると同時に、相手の話を聞くことの大切さを教える必要があるといえそうです。
10の姿「言葉による伝え合い」につながる保育士の援助の仕方
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では、10の姿「言葉による伝え合い」につながる保育の援助として、具体的にどのようなことを意識すればよいのでしょうか。
日々の保育において子どもの話に耳を傾ける
子どもの聞き役になる
言葉で伝え合う力を育むためには、子ども自身の「自分の話をきちんと聞いてもらった経験」が土台となります。
まだ上手に言葉で表せない子どもでも、身振りや表情、声の強さなどいろいろな表現で伝えようとするでしょう。
保育士さんが聞き役となることで、子どもが「話をちゃんと聞いてもらえた」「話していいんだ」と思うことができ、表現することの楽しさにつながるかもしれません。
保育士さんは、言葉にならないような声でもしっかりと聞いたり共感したりする姿勢を見せ、日々の保育の中でしっかりと子どもの伝えたいことに耳を傾けるように意識することが大切です。
子どもの表したいことを代弁する
子どもの表したいことを、短い言葉にして代弁したり、子どもの発した断片的な言葉を補ったりして、表現方法を教えるのもよさそうです。
たとえば「サラサラしているね」「リンリンって音がするね」など、「オノマトペ」を意識した言葉を使うと、子どもがマネして表現しやすいでしょう。
そういった保育を繰り返すことで徐々に言葉や表現方法を学び、子ども自身が状況にあわせて表現方法を変えながら伝えるようになっていくかもしれません。
子ども同士の言葉の伝え合いを大切にする
以下のように、子ども同士の言葉の伝え合いを大切にするとよいかもしれません。
- 子ども同士が言葉によるコミュニケーションをとろうとする姿勢を大切に見守る。
- 子どもの伝え方によってトラブルになった場合などは、必要に応じて保育士が介入する。
- 子どもが頑張った活動や見つけたこと、感じたことなどについて、発表をする機会を設ける。
- うまく気持ちを表現できない子どもには、「お花を潰して水に入れたら色水ができたんですって!ね、〇〇くん」などと必要に応じて代弁しながら伝え合いを促す。
なかには、自信をもって言葉を伝えられず、もどかしい思いをする子どももいるかもしれません。
そのようなときは、必要に応じて保育士さんが介入し、気持ちの代弁をするなどしながら伝え合いを促すとよさそうです。
10の姿「言葉による伝え合い」につながる保育の実践事例
最後に、10の姿「言葉による伝え合い」につながる実践事例を紹介します。
心が動いたことを言葉にする「自然体験」
自然体験を通して、心が動いた体験を言葉にして伝える実践事例です。
実践事例
4歳児クラスにおいて、自然体験活動を実践します。
里山のキャンプ場で、川遊びを楽しんだり、現地の人に教わりながら飯ごう炊飯でカレーを作ったりします。
「言葉による伝え合い」につながる子どもの姿
- 1日のスケジュールや川での注意点、カレーの作り方などを事前にクラスで話し合う。
- 「川の水が冷たくて気持ちいい」「水面がキラキラしていてきれい」など自然体験において感じることを思い思いに言葉にして保育士や友だちと共有する。
- 自然体験での思い出を発表する機会を設けると、「カレーは給食よりも辛かったけど、とてもおいしかった」といった感想を述べる。
幼児期の言葉は、環境と関わるなかで心を動かされる体験によって生まれることもあるかもしれません。
自然体験中に出てくる言葉や体験したあとに出てくる言葉を大切に受け止め、友達と共有する機会を作ることで、さらに言葉の幅は広がるでしょう。
子どもたちから活発に意見が飛び出す「劇遊び」
劇遊びのなかで子どもたちが活発に意見を出し合う実践事例です。
実践事例
5歳児クラスにおいて、発表会の練習として劇遊びを実践します。
劇の題材決め、配役決めのほか、劇に必要な道具を考えたりするための話し合いの機会を設けます。
「言葉による伝え合い」につながる子どもの姿
- 話し合いにおいて、それぞれの思い浮かべるアイデアを言葉で表現しながら発表する。
- 声が小さい子に対し、「2人でいっしょに言おう」などと提案する子どもの姿が見られる。
- 練習のなかで、「この前よりも上手になった」「このセリフはもっと楽しそうに言ったほうがいいんじゃない?」など伝え合って、内容を評価したり改善しようとしたりする。
劇遊びのなかで、子どもたち同士で題材について話し合ったり、よりよい劇のために評価し合ったりと、活発に意見が飛び出すかもしれません。
子どもたちだけでの話し合いが行き詰まった時は、担任が介入したほうがよい場合もあるでしょう。
その際は、保育士さんの意見が強くなりすぎないようにすることを意識しながらそれぞれの気意見を汲み取り、全員が納得できるような話し合いの援助ができるとよいかもしれませんね。
10の姿「言葉による伝え合い」は自分の言葉に自信をもって伝える姿
今回は、10の姿「言葉による伝え合い」における視点の内容や保育士の援助の仕方、実践事例を紹介しました。
子どもたちのなかには、言葉で伝えることやみんなの前で意見を発表すると緊張してしまう幼児もいるかもしれません。
まずは保育士さんに対して自分の意見を言葉で伝える経験を重ね、その子の言葉を肯定的に受容するような保育が大切になるでしょう。
保育学生さんは、子どもが言葉で表現したことに自信がもてるような声かけや、友だち同士で気持ちや意見を伝え合う場面をじっくりと見守ることを意識できるとよいですね。