変形労働時間制とは、1カ月や1年単位で労働時間を調整できる制度です。保育士の求人や就業規則で見かけることもある言葉なので、残業代や休日出勤の扱いなどを正しく理解することが大切ですね。今回は、変形労働時間制について、フレックス制度との違いや働くメリットなどを保育学生さん向けにわかりやすく解説します。
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■目次
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、特定の期間内で労働時間を調整することで、繁忙期などに勤務時間が増加しても時間外労働として取り扱わないとする制度です。
通常は”1日8時間”など勤務時間を1日単位で区切って管理することが多いですが、変形労働時間制では1カ月や1年など長期間で労働時間をやりくりする点が特徴的です。
たとえば、残業が見込まれる日はあらかじめ労働時間を長く設定しておき、かわりに別の日の勤務時間を短くするといった柔軟な働き方になるでしょう。
変形労働時間制を採用する保育園も増えているため、就活に備えてくわしい内容を知っておきましょう!
【期間別】変形労働時間制の種類
変形労働時間制には、以下の3つの期間の定めがあります。
- 1カ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
ここでは、それぞれの種類や制度の内容について、厚生労働省の資料をもとにくわしく説明します。
1カ月単位の変形労働時間制
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1カ月単位の変形労働時間制とは、1カ月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間となるように、特定の日または週に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働くことができる制度です。
どんな職場に適している?
一般的には商業施設や事務など、月初や月末といった特定の時期に忙しくなる職場に向いている制度と言われています。
保育園や幼稚園の場合、月末に書類作成などの仕事が立て込んで残業が増えてしまうようなケースで取り入れられているかもしれません。
働き方の例
ここでは、法定労働時間や勤務時間の例を確認して、具体的な働き方をイメージしてみましょう。
<1カ月単位の変形労働時間制における法定労働時間の例>
この制度では、1週間の労働時間の平均が40時間となるように勤務予定を組む必要があります。具体的に1カ月あたりの労働時間が何時間までかを確認してみましょう。
1カ月の暦のうえでの日数 | 法定労働時間の上限 |
---|---|
28日 | 160時間 |
29日 | 165時間42分 |
30日 | 171時間25分 |
31日 | 177時間8分 |
1カ月単位の変形労働時間制を採用する保育園で働くときは、月ごとのシフトが上記の法定労働時間を超えていないか確認するとよさそうです。
<勤務時間の例>
※平均労働時間を1週40時間以下とする場合
1カ月単位の変形労働時間制を取り入れている保育園での、1カ月の勤務形態の例を紹介します。
期間 | 勤務時間 | 1日あたりの労働時間 |
---|---|---|
1日~24日 | 9時~17時(休憩1時間) | 7時間 |
25日~月末日 | 8時~19時(休憩1時間) | 10時間 |
このように、月初めは余裕があるものの月末が忙しいという保育園では、あらかじめ所定労働時間を変更することもできます。
残業代はどうなる?
変形労働時間制で気になるのが残業代の扱いですよね。制度を適用している保育園であっても、時間外労働をすれば残業とみなされて残業代が支払われることになっています。具体的な条件を見てみましょう。
①1日について
就業規則などにより8時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間が残業にあたります。
②1週間について
就業規則などにより40時間を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて働いた時間が残業にあたります。なお、ここでは①で時間外労働となる時間を除きます。
③1カ月間について
1カ月間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が残業にあたります。なお、①や②で時間外労働となる時間を除いて計算します。
雇い主側が残業を命令するには36協定が結ばれている必要があるため、事前に確認しておくとよいかもしれません。ちなみに、36協定とは労働基準法36条に基づく労使協定のことを指します。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制とは、1カ月を越える1年以内の一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以下になるよう、特定の期間に1日8時間・1週40時間を超えて働くことができる制度です。
どんな職場に適している?
たとえば、春夏秋冬のシーズンごとに繁忙期・閑散期があるような職場に適しているようです。
繁忙期に就業時間を延ばしたり週6日間労働にしたりする分、閑散期の出勤日数や勤務時間を減らし、年間の就業時間数が法定労働時間内に収まるようにします。
保育園の場合、運動会や卒園式など行事の時季に残業が増える園では、1年単位の変形労働時間制を取り入れることが多いかもしれません。
働き方の例
1年単位の変形労働時間制における法定労働時間や勤務時間の例を確認して、具体的な働き方を確認してみましょう。
<1年単位の変形労働時間制における法定労働時間の例>
1年間を通して、下記の法定労働時間が設けられています。
1年間の暦のうえでの日数 | 1年間の法定労働時間 |
---|---|
365日 | 2085.7時間 |
366日 | 2091.4時間 |
法定労働時間は残業代の計算にも関係するので、しっかり押さえておきましょう。
<勤務時間の例>
さらに、1年間での勤務時間の例を紹介します。
3月~4月 | 1日9時間、週5日勤務 |
---|---|
8月 | 1日6時間、週5日勤務 |
上記以外の期間 | 1日8時間、週5日勤務 |
繁忙期である春には勤務時間が増え、閑散期である8月には少ない勤務時間で済む働き方の例です。特に夏休み時期に登園する子どもが減ってゆっくり休める保育園では、このような運用をしていることがあるかもしれません。
休日や残業代はどうなる?
<労働日数や時間、休日の取り方の決まり>
1年単位の変形労働時間制の場合、休日の取り方についても決まりがあります。
1年あたりの労働日数 | 280日(年間休日85日) |
---|---|
1日あたりの労働日数 | 10時間まで |
1週間あたりの労働日数 | 52時間まで |
原則連続で労働できる日数 | 連続6日 |
特定的に連続で労働できる日数 | 最大連勤12日(1週間に1日の休み) |
「閑散期に丸ごと休み、繁忙期に休日出勤をしながら毎日働く」といったことにならないよう決まりが設けてあるので、入職前に知っておきましょう。
<残業代の規定>
ここでは1年単位の変形労働時間制における残業代の規定を紹介します。
①1日について
労使協定により8時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日では8時間を超えて働いた時間が残業にあたります。
②1週間について
労使協定により40時間を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週では40時間を超えて働いた時間が残業にあたります。なお、ここでは①で時間外労働となる時間を除きます。
③1年間について
1年間における法定労働時間の総枠を超えて働いた時間が残業にあたります。なお、①や②で時間外労働となる時間を除いて計算します。
ただし、雇い主が残業をさせるには事前に労働者との間で36協定を結ぶ必要があるので、入職時に確認するようにしましょう。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
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1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、1日あたり10時間を限度に、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です。
ただし適用には条件があり、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業においてのみ認められています。保育施設では取り入れられていませんが、知識として知っておくとよいかもしれませんね。
勤務時間の例
ある1週間を例にして、1週間単位の非定型的変形労働時間制の働き方を紹介します。
このように、週の合計労働時間が40時間となるように調整することが可能になっています。
残業代はどうなる?
①1日について
1日あたりの所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間が残業として扱われます。それ以外の日では、8時間を越えた時間が残業にあたります。
②1週間について
所定労働時間が40時間を超える週は、その所定労働時間を超えた時間が、それ以外の週は40時間を超えた時間残業にあたります。なお、①の時間を除いて計算します。
また、先述した2つの制度と同じように、雇い主が残業をさせるには事前に労働者との間で36協定を結ぶ必要があるので、入職時にチェックしておくとよいですね。
フレックスタイム制や裁量労働制との違いは?
変形労働時間制と混同されやすいものに、フレックスタイム制や裁量労働制が挙げられます。ここではそれぞれの制度についてくわしく見ていきましょう。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、自分で日々の始業時間・就業時間を決めて働くことができる制度です。
対象となる業務や労働者の制限はなく、3カ月以内の一定期間を「精算期間」と定め、その期間を平均して労働時間が週40時間を超えない範囲内で働くことが基本です。
就業規則において、必ず勤務しなければならない時間帯はコアタイムとして設定されていることもあります。
変形労働時間制との違いとして、1日の労働時間が事前に決まっているかどうかという点が挙げられるでしょう。また、始業時間・終業時間をある程度自身で判断できるというのも異なるポイントと言えそうです。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、いくつかの専門職を対象としており、労働時間よりも能力や成果物に対して評価をする制度です。
裁量労働制には、以下の2種類があります。
専門業務型裁量労働制 | 企画業務型裁量労働制 | |
---|---|---|
対象となる事業 | 衣服、室内装飾、工業製品、広告などのデザインの考案や大学における教授研究、建築業、会計業などの専門的業務 | 事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う業務 |
上記の2つとも、実際に働いた時間数にかかわりなく一定の労働時間を働いたものとみなす制度です。
変形労働時間制との大きな違いとして、労働基準法の「1日8時間、1週40時間」のルールを適用しないことや、対象となる職種や業務が限定されていることが挙げられるでしょう。
出典:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き/厚生労働省
変形労働時間制の保育園で働くときのメリット・注意点
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最後に、変形労働時間制を採用する保育園で働くときに知っておきたいメリットと注意点をまとめました。就活の求人選びに役立ててみてくださいね。
メリット
生活リズムを整えやすい
業務量が多く残業を繰り返す状況が続くと、保育士さんにとっては業務のゴールが不明確になり、疲労が蓄積しやすくなるかもしれません。
しかし月間の労働時間があらかじめ明確になっていれば、日によって業務のペースや量を調整でき、生活のリズムを整えやすくなりそうです。
また、忙しい時期は集中して仕事をし、閑散期には労働時間を短くして休息に充てるなどバランスもとりやすいことから、作業の効率化や生活の質の向上にもつながるでしょう。
生活リズムが整うことは保育士さんの健康につながり、企業や園の職員、預かる子どもたちにとっても大きなメリットになるかもしれませんね。
ワークライフバランスの確保につながる
行事前や年度末など忙しい時期以外は休暇がとりやすくなり、プライベートの充実につながることもあるでしょう。
閑散期には連続した休暇を取得しやすくなるほか、1日の労働時間を短くできるなど、自身の都合にあわせて調整することができそうです。
そのため、家族と過ごす時間や趣味に費やす時間を確保しやすくなり、ワークライフバランスの実現につながると言えそうですね。
注意点
所定労働時間の繰り上げ・繰り下げはできない
変形労働時間制のもとでは、就業規則で定められた所定労働時間を自由に変えることはできないので注意が必要です。
たとえば、所定労働時間が7時間と定められた日に8時間働いた場合でも、「翌日の所定労働時間の7時間から1時間分減らして6時間にし、前日の残業をしていないことにする」といったことはできません。
残業代を算出する際は、就業規則と照らし合わせる
変形労働時間制は、日によって労働時間が変わることがあるので、残業時間が不明確に思えることもあるかもしれません。
変形労働時間制をふまえて就業規則が作成されているので、残業代を把握したいときは、所定労働時間と実労働時間を照らし合わせて残業代を算出してみましょう。
所定労働時間が法定労働時間を超えていないかチェックする
法定労働時間や休憩・休日については、労働基準法においていくつかの項目が定められているのでチェックしてみましょう。
- 原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えていないか。
- 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えられているか。
- 少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日が与えられているか。
企業や法人が定めた所定労働時間が上記の時間数を超えている場合、その分も残業とみなされます。
そのため、労働時間をしっかり把握したうえで、残業代を算出するとよさそうです。なお、36協定において「時間外労働時間は月45時間、年間360時間」という限度が設けられているので、あわせて覚えておきましょう。
出典:効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入「事例編-2」/厚生労働省
出典:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針/厚生労働省
変形労働時間制の働き方を知って、保育士の就職活動に活かそう
今回は、変形労働時間制の概要や単位ごとの説明、保育士さんにとってのメリットなどを紹介しました。
変形労働時間制とは、1カ月または1年のなかで柔軟に勤務時間を変更できる制度です。この制度を採用している園で働けば、時間外労働や休日出勤の削減につながるかもしれません。
また、ワークライフバランスの実現といったメリットも期待できるため、保育士として働く際に注目したいポイントと言えそうです。
変形労働時間制のくわしい内容や残業代の算出方法などを十分把握したうえで、就活での園選びに活かしてみてくださいね。