はじめまして、保育士おとーちゃんこと須賀義一と申します。
僕は元々保育士で、現在は子育てについての本やコラムの執筆、保護者向けの講演や、保育士研修、保育施設の保育監修などをしています。保育現場の問題解決や、お悩み相談もしています。
さて、子供と心を通わせ、一緒に生活や成長をともにしていく保育の仕事は、とても素晴らしいものです。
保育士の役割には子供の保育はもちろん、家庭へのサポートなどさまざまなものがあります。そのなかで忘れてはならないのが、次代を担う若い人たちへ、より良い保育を伝えていくこと。
今回、新しく保育者になった方や、これから保育士を目指す方にお伝えできる、こういった機会を得られたことは僕としても大変喜ばしいことです。
新しく保育士になった方や、実習で来た方が必ずと言っていいほどおちいってしまうポイントがあります。今回は、それについて見ていきます。
「子供がいうことを聞いてくれない」のは、まったく気にしなくてもいい!
新人さんの多くがおちいる悩みに、「子供がいうことを聞いてくれない」というものがありますね。
このことで、自信をなくしたり、悩んでしまう人は多いです。
しかし、はっきり言います。そのことはまったく気にしなくていいです。
保育の経験でまず身につけるべきは、子供にうまく指示・誘導できるスキルではありません。
逆に、子供に上から教え込んだり、いうことを聞かせることが保育なのだと思って、そのスキルから身につけてしまうことは大変危険なことであるとすら言えます。
それでは、僕が考える「新人保育者がまず身につけていくべきこと」とは、なんでしょうか?
それは、子供と信頼関係を結ぶことです。
大切なのは、子供と信頼関係を結ぶこと
僕が実習生を受け入れる際に必ずしていたのは、事前に子供の名前とマークが書いてある名簿を渡して、「実習日までに全員の名前を覚えてきて下さい」とお願いすることでした。
そして、一日目から個々の子供を名前で呼んで関わるよう伝えました。
子供は名前で呼びかけてもらうことで、その人への信頼を高めやすくなります。
「この子の名前なんだったかな・・・・・・」といった状態では、その子へ自信を持って関われなくなってしまいますし、信頼感も高まりません。
子供がいうことを聞かなかったり、相手を試す行動をとってくるのは、実はその人と信頼関係を結びたいという気持ちの表れでもあります。
ですから、子供が新しい人や若い人を前にしていうことを聞かない姿がでるのは、少しも悪いことでないのです。
信頼関係があれば、子供は自然と大人に寄り添ってくれる
子供が大人のいうことを聞くようになるには、ふたつのルートがあります。
ひとつは、「支配」のルートです。
怒ったり、叱ったり、注意したり、冷たくしたり、大きな声で指示したり、こういったことをすれば、たしかに子供はその大人のいうことを聞くようにはなります。
(あってはならないことですが、体罰はそれの最たるものです)
しかし、それは支配や威圧をされた結果、子供がやむなく従っているだけであって、本心から自分でその行動をとっているわけではありません。
もうひとつは、信頼関係のルートです。
普段から子供と心地よい関わりで心を通わせて、子供がその大人が大好きになれば、ことさら強い関わりをせずとも、子供はその大人の気持ちにより添って、大人の望むことに自然と従ってくれます。
保育者として目指すべきは、もちろん信頼関係のルートの方です。
そのためには、子供が従わないとの焦りから、子供と関わる際に緊張が強まってしまったり、表情が険しくならないようにしましょう。
保育者に「笑顔が大切」なワケ
よく子供に関わるときは「笑顔が大切」と言われますね。
このとき本当に大切なのは、その笑顔の向こうにあるおおらかで自然な心持ちです。
別のいい方だと、僕は「開示された心」と呼んでいます。
保育者の心が、子供に向かって開かれている様子ですね。
つまり、子供に対して許容的で、受容的な姿勢を表していることです。
このとき、「子供を時間内に移動させなければ」とか、「静かにさせなければ」「ちゃんと座ってお話を聞かせなければ」などの規範意識を心に強く持っていると、子供に対しての気持ちは閉じてしまいます。
とはいえ、保育で子供と向き合うときに、最初からこの「開示された心」を持ってのぞめる人はそうそういません。
最初はできなくたって当然です。
でも、子供と心を通わせながら一緒に過ごしていくなかで蓄積された経験が、だんだんとその感覚をつかませていってくれます。
それが何年後だとしても、「開示された心」を自身の姿勢として持つことができ、そこから子供たちに関わることができるようになったとき、「本当に保育士になってよかった」と思える日が来るでしょう。
子供と、人として嘘のない1対1の関係を築くことを目指そう
実は、この子供と過ごすときのおおらかで自然な心持ち、「開示された心」の姿勢を持てるようになると、たとえ笑顔でいなかったとしてすら、子供との関係は揺るがなくなるのです。
「今日、私ね、腰が痛くてあんまり元気ないのよ」
例えば、保育者がそのように自分の状況をありのままに伝えたとしても、子供はそれを普段の信頼関係のパイプを通して受け止めて、その保育者をいたわって優しくしてくれたり、いつもやんちゃな子までが自分から保育者の姿に合わせてくれたりする様子が見られるようになります。
これは、子供と大人が、ひとりの人間同士として関係を築いているということです。
もし、普段から支配のルートを使って子供と関わっていたとしたら、この実感を得ることはそうそうないでしょう。
子供と大人お互いが、人として嘘のない1対1の関係を築けるようになったとき、ここに本当の「子供の尊重」が見えてきます。
しかし、残念なことに支配のルートを強化することが、保育や幼稚園教育なのだと考えてしまっている人や施設もいまだにあります。
そういった施設や先輩にあたってしまっても、それに流されずに子供と信頼関係を築くことに優るものはないのだということを、どうぞ忘れないでいて下さい。
プロフィール
保育士おとーちゃん(須賀義一)
2009年、保育士としての経験などを元にブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』を開設。
現代の子育てに合った具体的な関わり方を伝えつつ、多くの人からの子育ての悩み相談にも応える。
著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』(ともにPHP研究所)など。
東京都江戸川区出身、墨田区在住。一男一女の父親。