新卒保育士の就活を進める中で、株式会社が運営する保育園について気になる保育学生さんもいるのではないでしょうか。株式会社の保育園は、2000年に行われた規制緩和以降、多様なサービスを展開するため徐々に増えつつあるようです。今回は、株式会社の保育園の特徴や働くうえでのメリット、社会福祉法人との違いについて紹介します。
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■目次
株式会社の保育園とは
そもそも株式会社とは、事業を興す際に必要な資金を投資家から集め、それに対して株式(受け取った資金に対する証書)を発行する会社のことをいいます。
2000年に行われた「保育所の設置主体制限の撤廃」により、株式会社も保育業界に参入し、認可保育施設を設立できるようになりました。その背景には、日本の社会問題となっている、保育所の待機児童問題やニーズの多様化があるといわれています。
株式会社の保育園の特徴
では、株式会社の保育園にはどういった特徴があるのでしょうか。
株式会社の運営する保育園の特徴として、以下のような点が挙げられます。
- 社会福祉法人との最も大きな違いは、株式会社が営利団体であるということ
- 社会福祉法人の保育園より運営コストを下げ、なおかつより充実したサービスを目指すためにも施設の運営は民間を極力活用し、最小コストでの実現を図っている
- より効率的な経営や利用者のニーズにあった保育サービスの提供をしている
運営資金に関しては、社会福祉法人は自治体などからの補助金が主な財源となりますが、営利団体である株式会社の運営資金は、株式や営業による利益となります。
株式会社保育施設が認められたことで、保育時間やサービス内容などが多様になったため、働く親にとっては子どもを預ける間口がより広がったといえるでしょう。
株式会社と社会福祉法人の保育園の違い
ここからは、株式会社と社会福祉法人の保育園の違いについて、2013年の厚生労働省「幼稚園・保育所等の経営実態調査結果」をもとに紹介していきます。
給与
まずは給与の違いから紹介します。
このように、2013年の時点での給与に関しては、各項目で社会福祉法人の保育園に勤める保育士さんの方が高いという結果でした。
ただし、株式会社はほかの会社よりも業績を上げようとしているので、より良質で評判の上がる経営・運営のために、保育士の待遇についても改善を進めていることが多いようです。
そのような理由から福利厚生などは株式会社の方がしっかりしていたり、家賃補助や社宅制度などのメリットもあったりと、処遇改善などにも積極的な企業もあるでしょう。
勤続年数・キャリアアップ
次に、勤続年数・キャリアアップの違いについて紹介します。
このように、2013年の時点では保育士の平均勤続年数は社会福祉法人の方が長いようでした。しかし施設長の項目を見てみると、平均勤続年数が25.3年なのが社会福祉法人で、10.4年が株式会社となっています。
つまり、株式会社のほうが施設長へのキャリアアップという観点では、施設長になりやすいといえるかもしれませんね。
出典:「幼稚園・保育所等の経営実態調査」/文部科学省・厚生労働省 2013年
株式会社の保育園で働くには
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では、株式会社の保育園で働くには、どのようなことが必要なのでしょうか。
株式会社の保育園の保育士採用試験は、各企業の方針や理念によっても内容が大きく異なるかもしれません。ここでは一般的なパターンを紹介します。
必要な資格
株式会社の保育園で正社員として働くには、基本的には保育士資格が必要になります。
選考方法
株式会社の保育園の一次試験は、多くが書類選考によって行なわれるようです。
履歴書や卒業見込み証明書、保育士資格の証明書など、求められる資料をもれなく揃えましょう。
二次選考では、面接試験や実技試験、論作文試験が実施されることがあるかもしれません。保育士としての実務能力と園への適性を試されますので、自己PRなどをしっかりと整理して準備しておくとよさそうです。
株式会社の保育園で働くメリットとデメリット
最後に、株式会社の保育園で働くメリットとデメリットを紹介します。
株式会社の保育園への入職を希望している保育学生さんは参考にしてみてくださいね。
メリット
まずはメリットを紹介します。
新たな取り組みに積極的
株式会社は営利企業で、利益を出さなければならないので、少しでも効率のよい仕事をしようと日々業務改善に力を入れています。
事務作業に関してもIT化を進めていたり、独自のプログラムを取り入れているなど、新しいことに色々と挑戦している傾向にあるようです。利益を上げることを目的として保育運営をしている株式会社だからこそ、既存の古い保育概念を覆して新しい保育のサービスを作り上げていく会社が多いかもしれません。
事務作業における手書きの書類作成などは保育士さんにとって負担に感じることもあるかもしれません。デジタル機器の扱いに慣れているのであれば、IT化を進めている園を探すのも一つの方法でしょう。
意見が出しやすい
新しく開設された園も多いので、立場にかかわらず若手の保育士さんからも意見が出しやすく、よい保育ができるよう模索しながら改善していくことができるかもしれません。
昔ながらのやり方にこだわる中堅・ベテラン保育士さんが尊重される現場ではなく、「これからみんなでよりよい保育園を作っていこう」という気持ちが揃っている園であれば、保育士さん同士のコミュニケーションも取りやすいでしょう。
そのため株式会社の保育施設の方が人間関係も築きやすいと感じる方もいるようです。新卒保育士だからと遠慮せず、積極的に新しい環境や保育方法にチャレンジできるかもしれませんね。
利益が多ければ年収があがる
株式会社が運営する保育園で働くことの大きなメリットは、保育園が利益を出すことを目的で経営できるという点です。
企業の経営が順調で、利益が上がれば保育士への待遇や処遇がよくなっていきます。
新卒保育士さんやその周りの職員が頑張れば、その努力が給与や賞与となって帰ってくるかもしれません。また福利厚生においてもさらに整っていくことが期待されます。
新卒保育士さんでも、頑張りが給与に反映されればモチベーションも上がるかもしれませんね。
デメリット
最後に、デメリットを紹介します。
利益が出ない場合は環境が悪くなることも
企業の利益が出なくなると、倒産のリスクや人員配置や環境などが悪くなる可能性は、社会福祉法人の保育園よりも高いかもしれません。
人件費を削ろうと保育士さんを正社員として雇わないで、非正規雇用の保育士さんが多くなるといった状況になることもあるでしょう。そのため正社員への負担が増えることも考えられます。
しかしどのような状況になっても、保育士さんの工夫によって保育の質を保つことができるかもしれません。保育士としてのスキルが上がるチャンスだと考えて、どうすればよりよい保育ができるか、その都度考えられるとよいですね。
会社が現場を理解していない場合も
経営者は、経営を考える人であり保育現場という特殊な場所を把握している人は少ないかもしれません。
「保育理念」よりも「利益」を重視している株式会社の保育施設では、経営者が現場を知らないことから無理難題をいわれ、対応ができず保育の質が低くなることもあるかもしれません。
しっかりと保育に力を入れている営利団体であれば、
- 環境の整備
- 職員の研修
- 子どもにとって充実した保育プログラム
などに力を入れているので、就職する前に一度見学に行くとよいかもしれませんね。
保育環境や実際に働いている保育士さんを見て、働きやすそうな環境かどうか確かめておくのもよいでしょう。
ベテランが少ない
株式会社の保育施設は、まだまだ歴史の浅いところも多く、保育現場で経験を重ねたベテランの保育士さんが少ないこともあるようです。
何か大きなトラブルがあっても、その対応記録やフローチャートもなく、自身の能力と決断で解決をしなければならないかもしれません。
それを経営者に相談しても、保育現場のことをわかっておらず、結局どう対応すればよいのかわからないといった状況が発生することも考えられます。
緊急の事故対応などに備えて、少しでも経験のある先輩保育士さんを頼ったり、自身でも事故対応について勉強したりするなど、ベテラン保育士さんが少なくても現場の保育士さん同士で連携し、カバーできるよう常に考えていけるとよいでしょう。
株式会社の保育園の特徴を知って、就活を進めよう
今回は、株式会社の運営する保育園の特徴やメリット・デメリットなどについて紹介しました。
株式会社の運営する保育園は、都市部を中心に増えつつあるようです。
株式会社や社会福祉法人など運営母体による特徴も理解した上で、就活においての情報を集めましょう。その中で魅力的に思える園があったなら、経営や方針、どのような保育に取り組んでいるのか、情報を見るだけでなく現場の見学もしてしっかりと捉えることが大切になります。
それぞれの魅力的なところと自分の保育観のバランスを考えながら、就活を進められるとよいですね。