保育士登録制度をご存じでしょうか。保育士養成校を卒業、あるいは保育士の資格試験に合格しただけでは保育士として働くことはできません。正規の保育士になるためには「保育士登録」という手続きを踏まえ保育士証の交付を受ける必要があります。今回は、「保育士登録」とは何かや登録の手順についてくわしく紹介します。
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保育士登録とは
保育士登録とは、保育士として働くために必要な「保育士証」の交付を受けるための手続きのことをいいます。
保育士資格を取得するには、指定保育士養成施設を卒業するか、保育士試験に合格する方法がありますが、それだけでは保育士として働くことはできません。
資格取得から保育士として就業するには、社会福祉法人 日本保育協会が運営する登録事務処理センターへ申請し、保育士登録を済ませた後、都道府県知事から「保育士証」の交付を受ける必要があるとされています。
なぜ所定の単位を修了しただけ、試験に合格しただけでは保育士として認められず、保育士登録が必要なのでしょうか。まずはその背景から説明します。
保育士登録が必要になった背景
保育士登録制度が導入されたのは、保育士という職業の信用性を担保するためといわれています。
保育士登録制度は、2003年11月に行なわれた児童福祉法の改正により、以下のように保育士の定義が変わったことにより作られました。
第十八条の四 この法律で、保育士とは、第十八条の十八第一項の登録を受け、保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者をいう。
出典:児童福祉法 第18条の4/厚生労働省から抜粋
児童福祉法の改正前は、保育士となる資格を証明する書類を持っていれば、保育士として児童福祉施設で働くことができたようです。また無資格者が保育士を名乗ったとしても罰則規定はありませんでした。
しかし法改正後は、保育士は名称独占資格として規定され国家資格となり、保育士となる資格を証明する書類(保育士資格証明書、指定保育士養成施設卒業証明書、保育士試験合格通知書など)を持っていても、保育士証がなければ「保育士」として働くことができなくなりました。
そして無資格者が保育士を名乗ることが禁止され、法律に違反した者には罰則が科されることとなりました。
この改正の背景には、保育士資格が詐称され、その社会的信用が損なわれている実態に対処する必要があること、地域の子育ての中核を担う専門職として保育士の重要性が高まっていることなどが挙げられるようです。
保育士登録の対象者
では保育士登録は、どういった人が対象になるのでしょうか。
保育士登録が必要になる対象者は、保育士となる資格を証明する書類をもち、保育の現場で働く人もしくは働く予定のある人です。
保育士資格をもっていない人や取得していても現場で働かない人は、登録不要とされています。
保育士登録制度とは何かや導入された背景、対象者を押さえたところで、実際の登録手順をくわしく紹介します。
保育士登録の手順
保育士登録とはどのような手順で行うのでしょうか。その手続きが面倒なのか気になる保育学生さんもいるかもしれません。
結論から言うと、保育士登録は必要書類さえ揃えれば簡単にできます。
ここからは保育士登録の手順についてくわしく説明するので、これから保育士登録をする予定のある方は参考にしてみてくださいね。
ステップ1.「保育士登録の手引き」を取り寄せる
まず「保育士登録の手引き」という書類を登録事務処理センターから郵送にて取り寄せます。
その際に必要となる送信用封筒、同封する返信用封筒について、記載の仕方もあわせて紹介します。
用意するもの
手引きを取り寄せるために用意するものは、以下の通りです。
- 返信用封筒 1枚:角形2号(A4サイズ)が折らずに入る大きさのもの
- 送信用封筒 1枚:返信用封筒が折りたたんで入るサイズであれば定型サイズの封筒でも可能
- 切手:送信用は重さに応じて、返信用は必要部数に応じて金額が変動
以上を参考に、封筒2枚と必要金額の切手を用意しましょう。
送信用封筒の書き方
送信用封筒には、登録事務処理センターの宛先を記入します。封筒の左側に赤字で「保育士登録の手引き1部」と請求内容を明記しましょう。
封筒の重さや大きさによって、必要な金額分の切手も貼りつけます。
返信用封筒の書き方
封筒の中には、返信用封筒を1枚入れましょう。手引き(A4サイズ)を入れてもらって自分のところへ送り返してもらうための封筒となります。
こちらの宛先には自分の名前と住所、左側に赤字で「保育士登録の手引き1部」と内容も記載します。返信用封筒に貼る切手の金額は、請求する「保育士登録の手引き」の部数によって変わります。1部の場合は普通郵便で140円が目安となるでしょう。
以上を揃えて、郵便局やポストから送付します。
複数請求する場合や速達で請求したい場合は、登録事務処理センターの公式ホームページに詳細が記載されていますので、確認しておくとようにしましょう。
ステップ2.手数料の払い込み
次のステップは保育士登録の手数料の払い込みです。
送られてきた「保育士登録の手引き」にしっかりと目を通したら、以下の手順で手数料を払い込みましょう。
1.専用の手数料払込用紙のすべての箇所に、申請者本人の住所・氏名を記入する
2.郵便局の窓口で払込手続きをする
3.受領証と、振替払込受付証明書を受け取り、両方に郵便局の日付入り受付印があることを確認する
手数料は、登録人数一人につき4,200円となります(2020年8月時点)。
手数料の払い込みにATMを使用することはできません。記入した払込用紙を郵便局に持っていき、必ず窓口で振り込みましょう。
また郵便局に備え付けの払込用紙を使用することもできないので、同封の専用の払込用紙を使用することが必要になります。
払い込みが完了したら、受領証と振替払込受付証明書は大切に保管しておきましょう。
ステップ3.申請に必要な書類を揃える
手数料を振り込んだら、必要書類を揃えます。
基本的に必要書類として、以下を揃えるとよいようです。
(1)保育士登録申請書
(2)振替払込受付証明書
(3)保育士となる資格を証明する書類の原本
それぞれどのような書類なのか、くわしく説明します。
(1)保育士登録申請書
保育士登録の手引きに同封されています。必要事項を記載しましょう。
(2)振替払込受付証明書
振替払込受付証明書は、郵便局で登録手数料を支払ったときに受け取った、払込用紙の右側の部分です。
保育士登録申請書の裏面に、全面のりづけしてしっかり貼りましょう。
(3)保育士となる資格を証明する書類の原本
保育士となる資格を証明する書類の原本は、以下のうち、いずれか1つを提出します。
書類は、コピーではなく必ず原本を用意しましょう。
- 保育士資格証明書
- 指定保育士養成施設卒業証明書(卒業証書とは別の書類です)
- 保育士養成課程修了証明書
- 保育士試験合格通知書
- 保育士試験一部科目合格証明書(連続した3年間で全科目合格していることが確認できるもの。こちらを使用する場合は登録事務処理センターのホームページから「保育士登録申請書別紙」をダウンロードして印刷し、記入と添付を行います)
保育士となる資格を証明する書類に記載されている氏名と現在の氏名が、婚姻などにより異なっている場合には、「現在の戸籍謄本(6カ月以内に発行されたもの)」もあわせて送付する必要があります。
書類を揃えたら、不備がないか十分に確認しましょう。
住民票や卒業証書など保育士登録に関係のないものを誤って送付した場合、返送されないので注意が必要です。
外国籍の方は必要に応じて書類があるようなので、登録事務処理センターのホームページを確認するとよさそうです。
ステップ4.申請書類の提出
ステップ3で用意した書類を封筒に入れたら、郵便窓口にて、必ず簡易書留郵便で郵送をしましょう。
宛先は「保育士登録の手引き」を取り寄せたときと同じく、登録事務処理センターとなります。
ステップ5.保育士証の交付
郵送した保育士登録申請書をもとに、各都道府県にて審査・決定を経て、保育士登録簿に登録されて、保育士証の交付となります。
申請の受付から交付までおおよそ2ヶ月前後を有しますが、登録事務処理センターから自宅へと簡易書留郵便にて手元へ届きます。
ここまでのステップを経てはじめて、各児童福祉施設で保育士として働くことができます。
参考:保育士登録申請手続き(新規登録)/登録事務処理センター
保育士登録で知っておきたいポイント
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最後に、保育士登録で知っておきたいポイントについて紹介します。
保育士登録の期限について
保育士登録は、いつからいつまでに行なえばよいのか気になる保育学生さんもいるのではないでしょうか。
保育士登録の手続きには、特に期限はないとされています。保育士となる資格を有する方であれば、いつでも申請が可能のようです。
保育士養成校を卒業、もしくは資格試験に合格したのが10年以上前という方でも、手続きを踏まえて登録すれば保育士証を受け取ることができます。改めて養成学校に入学したり、試験を受け直したりする必要もありません。
ただし通常、事務処理センターへの申請から手元に保育士証が届くまでに2カ月ほどかかるといわれています。いつから保育士として働く予定があるなど、期日が決まっているのであれば、業務に就く前に登録を済ませられるようにするとよいでしょう。
登録しないと保育士資格は失効する?
保育士登録を行わなかったために、保育士資格を失うことはありません。
しかし、先に述べたように、児童福祉法の改定により保育士となる資格を証明する書類(保育士資格証明書など)だけ持っていても、保育士として働くことができなくなりました。
保育士登録申請手続きを行い、保育士証が交付されてはじめて、保育士として業務に就くことができるので覚えておくとよいでしょう。
保育士証の交付がされる前に入職する場合
卒業してから保育士証が交付されるまでの期間も、保育士資格は保有していますし保育士登録もされている状態です。
その証明として、「保育士登録済通知書」が3月末、もしくは4月の初めに送付されてきます。
ただし保育士登録済通知書の有効期限は3カ月間となっているので、保育士証が届き次第、そのコピーを勤務先に提出しましょう。
登録後の勤務先について
保育士証は、保育士養成校を卒業した方であれば申請書を提出した時点で住民票のある自治体から、保育士試験に合格した方は合格地の自治体から発行されます。
しかし、発行された場所で働かなくてはいけないという決まりはありません。保育士証さえ持っていれば、全国どこでも保育士として働くことが可能です。
保育士証の更新について
保育士証は一度交付されれば更新する必要はありません。
引っ越しなどにより住所が変わっても、保育士証に書かれている本籍地が変わっていなければ届け出をしなくてよいようです。
ただし、婚姻などにより保育士証に記載されている氏名や本籍地が変わった際には、登録事務処理センターへ申請し、変更手続きを行いましょう。
また、保育士証を紛失した際にも、登録事務処理センターへ申請すれば、再発行手続きを行えるようです。
保育士として働く前に必ず保育士登録をしよう
今回は、保育士登録とは何かやくわしい手順、登録についてしっておきたいポイントを紹介しました。
保育士となる資格だけではなく、自治体から発行される保育証を受け取って、はじめて保育士として働くことができます。保育士登録は、保育士という大切な資格を守るための手続きといえるでしょう。
順を追って進めていけばそれほど難しいものではありませんので、一つひとつ丁寧に行って、スムーズに保育士登録を済ませられるとよいですね。