ピラミッドメソッド幼児教育法について知りたい保育学生さんも多いのではないのでしょうか。子どもの自主性を伸ばすこの教育法を就職後に実践したい方もいるかもしれません。今回はピラミッドメソッド幼児教育法とは何か、また、ピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れた保育園や幼稚園に就職するためのポイントを紹介します。
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■目次
ピラミッドメソッド幼児教育法とは
ピラミッドメソッド幼児教育法とは、オランダの教育組織Cito(旧オランダ王立教育評価機関)において、フォン・カルク博士が開発した「自分で選択して決断できる力」を育むための教育法です。
ピラミッドメソッド幼児教育法は、ピアジェ理論とヴィゴツキー理論を元に開発され、社会で生きるための基礎的な力をバランスよく育んでいけるようなカリキュラムが用意されています。
オランダの教育現場で取り入れられている他、アメリカやドイツでも実践の動きがあるようです。
ピラミッドメソッド幼児教育法とは
ピラミッドメソッド幼児教育法の基本的な概念と基礎理論について説明します。
ピラミッドメソッドと呼ばれる理由
ピラミッドメソッド幼児教育法は、4つの基礎理論と3つの実践内容を四角錐(ピラミッド)状に積み上げていくことから、ピラミッドメソッドという名前がつけられたといわれています。
ピラミッドの底面にあたる四角形を4分割し、「子どもの自主性」「保育者の自主性」「寄り添うこと」「距離をおくこと」という4つの基礎理論を敷いていきます。
そうしてできた基礎石の上に「自由な遊び」「プロジェクト」「保育士が教える遊び」の3つの実践内容を積み上げることで子どものスキルを育んでいくようです。
4つの基礎理論について
ピラミッドメソッド幼児教育法の基礎石となる4つの基礎理論について詳しくみていきましょう。
子どもの自主性(やる気)
ピラミッドメソッド幼児教育法では、子どもが自ら環境に関わろうとする自主性を大切にしているそうです。
子どもたちが部屋を見て、自分のやりたい遊びを自ら選んで決められるような環境づくりに力を入れています。
保育士さんがみんなに指示するのではなく、子ども一人ひとりが主体的に考えて行動できるような関わりが求めらるでしょう。
保育者の自主性(働きかけ)
子どもの自主性を引き出すには、保育士さんからの「認められている」「受け入れられている」といった安心感を持つことが不可欠でしょう。
それにより養護的欲求が満たされることで、「やってみよう」「試してみよう」という教育的欲求が芽生えると考えているそうです。
保育者は子どもが安心できる環境を整えるとともに、個々の発達に寄り添った支援を行なう必要があるといえるでしょう。
そうすることで子どもたちの自発的な遊びや学びが促されるようです。
寄り添うこと(養護的内容の基盤となる理論)
母親と子どもの愛情ある関係がもたらす好影響に着目したアタッチメント理論(愛着理論)を保育士さんと子どもの関係にも当てはめて考えています。
保育士さんとの適切な愛着関係が形成されることによって、子どもは安らぎを覚えることができるでしょう。
そうした安心できる空間の中で、自主性のある探索活動や遊びに没頭できるといわれています。
距離をおくこと(教育的内容の基盤となる理論)
身の回りの具体的な出来事にふれることから、だんだん目に見えない概念への理解へとつながっていくというディスタンシング理論を大切にしています。
例えば、子どもにとって身近な花や木の実などにふれて遊ぶうちに、自然と数に興味を持てるような環境をつくるといった実践があるようです。
そのためには、子どもの発達段階を理解し、子どもにとって近い世界から関わっていくこと、徐々に時間をかけて抽象的な世界や概念の理解へとつなげていくことが必要とされるようです。
ピラミッドメソッド幼児教育法ではこれらの4つの理論を元に、保育を行なうようですね。
ピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れた保育の特徴
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ピラミッドメソッド幼児教育法の特徴である、3つの実践内容「自由な遊び」「プロジェクト」「保育士が教える遊び」を保育の中で実践する工夫について紹介します。
コーナー遊び
子どもたちがコーナーを見ながら自由な遊びを決められるよう、遊びのコーナーが分けられた環境を用意されています。
アートコーナーや思考コーナーなど、小さなコーナーに分かれておもちゃや道具が準備されていて、子どもは好きな遊びを自主的に選んで活動を始めることができます。
コーナーはパーテーションで区切られる、保育士はなるべく介入せず見守るなど、落ち着いてじっくりと遊び込めるための工夫がされているそうです。
他にも、子どもは別のコーナーに行きたくなったら片付けをしてから移動するなど、自律性を育むためにも役立つようです。
プランニングボード
保育室内の遊びのコーナーが写真で示されたプランニングボードを見て、子ども自身がどの遊びをしようか決められるようになっています。
誰がどの遊びをしているか分かるよう、遊びを選んだら自分の名前のプレートを貼ってから遊ぶといった工夫もあるようです。
遊びを俯瞰して選ぶことで自己決定力を養うとともに、遊びに集中する力を育てることができそうですね。
プロジェクト
日常の保育活動の中に明確なテーマと目的を与えるために、11個のテーマが設定されています。
「数」「大きさ」「空間」「家」などといったテーマがあり、1つのテーマを1カ月かけて学んでいきます。
長いスパンをかけて習得することで、身の回りの具体物からだんだんと抽象的な概念の理解へとつながっていく効果があるようです。
サークルタイム
サークルタイムという時間を設け、保育士さんと子どもが1つの円になって椅子に座り、話をします。
プロジェクトに関する話や遊びを行い、子どもは自分の意見や思いを表現したり友だちの話に耳を傾けたりします。
子どもの自己表現力を伸ばすとともに、保育士さんが子どものことを理解するための時間でもあるようです。
他にも、決まった時間にサークルタイムを設定することで、生活のリズムを整える効果が期待できるそうです。
チューターカリキュラム
チューターカリキュラムとは、特に遊びの援助を必要とする子どもに対して、専門性の高い保育士さんが個別に援助を行なう制度のことを指します。
子どもが安心してプログラムに取り組めるよう、一人ひとりの発達に合わせた個別の対応を行ないます。
コーナー遊びでは保育士さんはあまり子どもの遊びに介入しませんが、このチューターカリキュラムを通して個々に寄り添った支援ができそうですね。
ピラミッドメソッド幼児教育法のメリット・デメリット
メリット
ピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れた保育を通して多くのメリットを得られるようです。
子どものメリット
ピラミッドメソッド幼児教育法で得られる、子どもに関するメリットには以下のようなものがあるようです。
- 安定してしっかりと遊びを楽しむことができる
- プロジェクトなどを通して、遊びを広げていくことができる
- 自分の興味ある遊びを選ぶので集中力や落ち着きが身に着く
- 子どもたちの言葉や表現が具体的になる
自ら遊びを選んで取り組むことで、このように遊びに集中できる力が身につくようです。
また、保育士さんとの愛着形成や一人ひとりに寄り添った援助を行なうことで以下のようなメリットが得らそうです。
- 自分で解決しようとする力がつく
- 自己決定力が身につき、意思表示ができるようになる
- 自主性が育ち、一人ひとりが自信や自尊心を持つようになる
愛着関係の中で子どもの自主性を大切に育むことで、子どもの自信と決断力を育めるようです。
その結果、社会で大切となる自己決定力や自尊心を身につけることが期待できるそうです。
保育士のメリット
ピラミッドメソッド幼児教育法で得られる、保育士に関するメリットには以下のようなものがあるようです。
- 子ども一人ひとりに寄り添えることで、配慮が必要な子に関わりやすくなる
- 大きな声で全体に指示をしながら保育をする必要がないため、落ち着きが生まれる
- サークルタイムを通した子どもとの話し合いで、より子どもへの理解を深められる
- 子どもと一人ひとりのやりとりが増え、手ごたえや保育の楽しみを感じられる
また、体系的な実践理論が構築されているおかげで、以下のようなメリットもあるようです。
- 新卒の保育士でもすぐに実践できるうえ、ベテランの保育士はよりスキルを発揮することができる
- プロジェクトを元に考えることで、保育の方法を発展的に捉えられるようになる
このように子どもにとっても保育士さんにとっても、落ち着いた保育環境の中でゆったりと関わりを持てる教育法であると言えそうです。
デメリット
ピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れることで、下記のようなデメリットが生まれてしまうこともあるようです。
子どもが日本の共同体の中で浮く可能性も
ピラミッドメソッド幼児教育法では、子どもの自主性に重きを置いた保育を行ないます。
保育園や幼稚園を卒園したあと、小学校やクラブなどの共同体になじみにくいと感じてしまうこともあるかもしれません。
自主的に興味のある遊びを選びとってきた保育とは違う、一斉に行なわれる授業や活動に最初は戸惑ってしまう子どももいるでしょう。
特徴的な子どもとの関わり方に保育士は戸惑うことも
ピラミッドメソッド幼児教育法で行なわれる、子どもの興味を見守り、導いていくという特有の関わり方に、慣れるのが大変だと感じるかもしれません。
特に一斉保育や集団遊びをメインとする保育園・幼稚園で実習を経験した保育学生さんにとって、最初は子どもとの関わり方にギャップを感じてしまうのではないでしょうか。
自主性を重んじるピラミッドメソッド幼児教育法は、日本で従来行なわれてきた保育や教育とは少し観点が異なる教育法なのかもしれません。
その点にギャップを感じてしまう人もいるかもしれないので、きちんと教育内容について理解を深める必要がありそうですね
ピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れた園に就職するには
ピラミッドメソッド幼児教育法を実践している保育園・幼稚園に就職したいと考えている保育学生さんが、やっておくとよいことについてまとめました。
子どもとの関わり方を学ぶ
ピラミッドメソッド幼児教育法では、子ども一人ひとりに寄り添った愛着関係を作るとともに、子どもの興味や自主性を育むための見守るような関わりが実践されています。
そうした子どもの自主性や主体性を伸ばすための関わり方について学んでおくことで、入職後にスムーズに保育ができるようになるでしょう。
基本概念や実践内容について理解する
ピラミッドメソッド幼児教育法では、基礎理論や実践内容がしっかりと体系立てて構築されており、ベテラン保育士さんでも新卒の保育士さんでも一定の質を保った保育ができるような手法や考え方が学べるようになっています。
入職前にこの理論を学んでおくことで、カリキュラムを通した保育活動の考案や、援助の必要な子どもへの寄り添いが適切にできるようになるなるかもしれません。
ピラミッドメソッド幼児教育方法を実施している園を見学する
実際にピラミッドメソッド幼児教育法を取り入れている保育園・幼稚園を見学することも一つの方法でしょう。
保育士さんたちがどのように子どもと関わっているのか、保育室の環境構成はどのようになっているのか、子どもはどのように遊びを選び活動しているのか、実際に見学することで具体的なイメージを得ることができそうです。
可能であれば、ボランティアやアルバイトなどでピラミッドメソッド幼児教育法の実践を経験できると、援助のスキルを身につけることができるかもしれません。
ピラミッドメソッド幼児教育法を学び、保育士の就職に活かそう
今回は、ピラミッドメソッド幼児教育法とは何か、理論や特徴とともにメリットや保育学生さんが学んでおくべきことを紹介しました。
ピラミッドメソッド幼児教育法は、子どもの自主性を伸ばすという目標をもって保育を行なう教育方法であり、4つの基礎理論と3つの実践内容に基づいて構築されています。
また、子どもの興味に合わせた自主的な遊びを通して、自律性や自己決定力を育んでいくためにさまざまな工夫や活動が組み込まれているという特徴があるでしょう。
ピラミッドメソッド幼児教育法について詳しく知り、保育への理解を深められたらよいですね。