保育士として就職する際、雇用契約書が交付されない企業や園があるようです。その場合、違法性はないのか気になる学生さんもいるのではないでしょうか。今回は、雇用契約書は法律上必要なものなのか、記載内容などを紹介します。また、書類がないことによって考えられるトラブル例と対処法についてもまとめました。
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■目次
雇用契約書がないのは違法?
雇用契約書とは、雇用主と労働者が契約内容に合意したことを示す書面で、双方ともに署名・捺印することで成立します。
雇用契約書にはどのような記載があるのか、ない場合は違法となるのか気になる保育学生さんもいるのではないでしょうか。
「労働契約法第6条」では、雇用契約に関して以下のように定められています。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
この法律によると、雇用契約は使用者と労働者の合意のみで認められることになります。書類で契約を交わすのは義務ではないため、園によってはないところもあるでしょう。
しかし、労働基準法第15条において「労働条件は、使用者が労働者に対して必ず明示しなければならない」と定められています。
そのため、正社員やパートなど雇用形態に関わらず、入職前に労働条件について記載されている書類を渡されることが一般的です。これを通常、「労働条件通知書」と呼びます。
したがって、雇用契約書は法律上必須とはされていませんが、雇用側から労働条件が明示されていないのは違法となるかもしれません。
園によっては、「雇用契約書兼労働通知書」としていたり、内定通知書とともに労働条件通知書が送付され、確認したうえで後日雇用契約書にサインしたりとさまざまなケースがあるようです。
入職時に、どのような書類が交付されるのか確認するようにしましょう。
雇用契約書に記載されている内容例
雇用契約書には、どういった内容が記載されているのでしょうか。園によって形式が異なるようですが、内容の一例を説明します。
テンプレート
記載内容
雇用期間と形態
労働契約の期間の定めがある場合は、決められた期間や更新の有無が記載されています。期間の定めがない場合は「期間の定めがない」と明記されている必要があります。また、正社員・非常勤・パートなど雇用形態について書かれていることもあるでしょう。
就業場所と業務内容
毎日業務を行う場所や、業務の具体的な内容について記載されています。
就業時間
労働者に適用する始業・終業時刻のほか、変形労働時間制やシフト制などの勤務パターンも記載されています。また、時間外労働について書かれている場合もあるでしょう。
休日と休暇
休日の日数や休暇の有無についての項目です。労働基準法に則った範囲である必要があります。
給与の詳細と支払方法
基本給や手当の金額のほか、残業代・休日手当などの計算方法について記載されています。また、支払方法について「手渡し」または「振り込み」といった内容が書かれていることもあるでしょう。
試用期間
試用期間を設けている園では、その期間が示されています。
退職について
園をやめる際の手続きの方法や解雇の理由などが記載されています。
一般的に、退職を申し入れる際の期限について書いてあることが多いようです。雇用契約書に記載されている内容のほか、労働条件通知書も確認したうえで契約書にサイン・捺印しましょう。
雇用契約書がないことによって想定されるトラブル
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雇用契約書を交付しない園の場合、どういったトラブルが想定されるのでしょうか。起こりうる例を紹介します。
求人情報と労働条件が異なる
園によっては、求人票と実際の労働条件が異なるところもあるようです。そのため、求人票が好条件だと思って就職したにもかかわらず、実際は違っていた、というケースが考えられます。
労働条件通知書は使用者が一方的に示すものであり、双方の合意は必要ありません。そのため、よく確認せずに入職してしまうと、それに合意したと見なされてしまうこともあるようです。
求人票の情報は目安ととらえ、入職前に実際の条件を把握することが大切です。
自身に不利な就業規則がある
雇用契約書を交付しない園のなかには、例として以下の内容を就業規則として定めているケースもあるようです。
- 残業をしても残業代を支払わない
- 有給休暇を自由に取得できない
- 就業規則に違反したら即時解雇する
就業規則は会社独自のルールであるため、なかには違法な内容が含まれている恐れもあります。自身に不利益となる内容が記載されていないか事前に確認しましょう。
試用期間の認識にズレが生じる
雇用契約書がない場合、使用者側と雇用者側とで試用期間についての認識にズレが生じる恐れがあります。
園によっては、入職してから数カ月を試用期間として定めている園もあるようです。試用期間中は、本採用時と比べて給与が低かったり、待遇が悪かったりするケースも考えられます。
試用期間について労働条件通知書に記載する必要がありますが、きちんと読んでいなければ合意したと見なされることもあるでしょう。そのため、「試用期間なんて聞いていない」というトラブルにつながりかねません。
入職時、認識に間違いがないか確かめておきましょう。
雇用契約書がない場合の対策
雇用契約書がない場合にとれる対策について紹介します。
労働条件通知書や就業規則をよく確認する
雇用契約書がない場合は、入職前に労働条件通知書や就業規則を確認し、内容を把握しておくことが大切です。
使用者は、明示した労働条件とは異なる働き方をさせた場合違法となります。入職後に「示された条件と違う」と感じたら、すぐに申し出るようにしましょう。
疑問を感じたら園に説明を求める
もし働き方について疑問を感じたら、園に説明を求めましょう。
先述したように、労働条件の明示は法律で定められています。それを拒否された場合は、それを理由に入職をやめる、もしくは退職できることを心得ておくとよいかもしれません。
雇用契約書がない場合は、労働条件を確認したうえで入職しよう
今回は、雇用契約書のくわしい記載内容や、ない場合に想定されるトラブルについて紹介しました。
雇用契約書は、労働者と使用者双方の同意を示す重要な書類ですが、ないこと自体は違法ではありません。ただし、正社員・パートに関わらず労働条件の明示は法律で定められています。示されずに改善が見込まれない場合は、それを理由に入職をやめることや退職することを検討してもよいかもしれません。
「入職してみたら聞いていた条件と違う」といった事態を防ぐためにも、入職前に書類をしっかり確認し、働き方について把握しておくとよいですね。